25.歌が裁く守りの誓い
朝日が差し込み、神詠騎士団の訓練場はすがすがしい空気に包まれていた。
セリアは訓練場の隅で、歌唱杖を握りしめながら深呼吸を繰り返している。
(私は異端じゃない。歌の力で仲間を守りたい。それが私の信念だ)
昨夜、レオン副団長から言われた言葉を思い出し、もう一度決意を固める。
訓練が始まり、レオンが剣を構えながら前に立った。
「今日は、仲間を守るための歌をさらに磨く。セリア、準備はいいか?」
「はい、副団長」
アイリスも隣で頷きながら声をかける。
「制御が安定してきているとはいえ、実戦では何が起きるかわからない。どんな状況でも冷静さを保てるように意識すること」
「わかりました」
模擬戦が始まり、レオンが斬撃を繰り出す。
「――守護の風よ、光を包み、力を和らげよ!」
セリアの歌がバリアを展開し、斬撃を防ぐ。
(うん、今のはうまくできた)
レオンがさらに間合いを詰め、強化した一撃を放つ。
「次はどうだ!」
(音の振動を合わせて、力を逃がすように……)
セリアは歌のトーンを少しだけ下げ、バリアを柔軟にして衝撃を吸収した。
「見事だ、セリア。そのまま維持しろ!」
模擬戦が終わり、レオンが満足そうに頷いた。
「力の調整がうまくいっているな。暴走する兆候も見られない」
「ありがとうございます。歌の響きを整えることで、制御しやすくなりました」
アイリスが少し微笑んで言う。
「以前は力を込めすぎて暴発することが多かったけれど、今の歌は柔らかさがあるわね」
「はい、力を分散させる感覚を意識してみました」
訓練が終わり、セリアは汗を拭きながら一息つく。
すると、リクが駆け寄ってきた。
「セリア、今日も絶好調じゃん! あのバリア、すげえ安定してたな」
「うん、少しずつだけど感覚が掴めてきた気がする」
「さっすがだな。でも、あの“解放”ってやつ、やっぱり気になるよな」
セリアは一瞬表情を曇らせたが、すぐに笑顔を作った。
「私の歌が“解放”かどうかはわからない。でも、私は仲間を守るためにこの力を使いたい。それだけは変わらないよ」
リクがニカッと笑って、親指を立てた。
「そうこなくっちゃな! 俺はセリアを信じてるからな」
その日の午後、突然王都の南門付近から警報が鳴り響いた。
「魔物が出たぞ! 前衛部隊は配置につけ!」
レオンが素早く指示を出し、セリアたちも現場へ向かう。
南門前には黒狼獣とは異なる、巨大な獣型魔物「獄牙獣」が暴れ回っていた。
「こいつは……黒狼獣よりさらに大きい!」
「やばい、もう門が崩れそうだ!」
レオンが剣を構え、前衛部隊が突撃するが、魔物の鋭い牙が門を砕きかけている。
「くそっ、強引に押し込むぞ!」
「――守護の風よ、仲間を包み、力を支えよ!」
セリアが急ぎ歌い、バリアを張って門の崩壊を防ぐ。
「ナイスだ、セリア!」
アイリスが援護の歌を重ねる。
「――癒しの風よ、力を与えよ!」
前線の兵士たちが傷を癒しながら戦うが、魔物の突進が強烈で押し返されそうになる。
(もっと強く守れれば……いや、力を一方向に集中させれば耐えられるかも)
セリアはふと、前世の記憶を思い出した。
(音波の共鳴を一点に集中させて衝撃を吸収すれば……)
歌の旋律を少し変え、力を一点に集中させるイメージを描く。
「――守護の光よ、全てを一点に集め、力を受け止めよ!」
バリアの中心が輝き、魔物の突進を吸収しながらも崩れない。
「おお、耐えた!」
リクが歓声を上げた。
「セリア、すげえ! あの突進を止めるなんて!」
レオンがすかさず指示を出す。
「今だ! 全員で集中攻撃!」
剣士たちが一斉に突撃し、レオンの光の斬撃が魔物の胸を貫いた。
「光の剣閃!」
巨大な獄牙獣が崩れ落ち、門前に静寂が訪れた。
戦闘が終わり、安堵の表情が広がる中、セリアは深呼吸をした。
(私は……やっぱり、この歌で仲間を守れる)
レオンが歩み寄り、肩を叩いた。
「見事だったぞ、セリア。君の歌が門を守ったんだ」
「ありがとうございます。私、少しだけ自信が持てました」
アイリスも笑みを浮かべる。
「解放なんて言葉に惑わされず、信じる歌を歌えばいい。それがあなたの強さよ」
「はい……私は、守るために歌います」
その夜、リクが寮の食堂で豪快に笑っていた。
「お前、すげえじゃねえか! あんな巨大な魔物を止めるなんてさ!」
「ちょっと怖かったけど、無我夢中だったかも」
「でもさ、あれが解放ってやつなのか?」
「わからない。でも、私は自分の歌を信じてる。仲間を守れる歌なら、それでいい」
リクが笑って親指を立てた。
「その意気だぜ! これからも頼りにしてる!」




