20.歌が裁く誓いの歌
朝日が昇り、神詠騎士団の訓練場には活気が戻ってきていた。
セリアはレオン副団長と共に模擬戦の訓練を続けている。
昨日の成功を受けて、少しだけ自信を取り戻したセリアは、力を抑える感覚をさらに磨こうと必死だった。
「――守護の風よ、静かに流れ、光を包め!」
歌唱杖から放たれた光がバリアを形成し、レオンの剣撃を受け止める。
「いいぞ、その安定感だ。力を流す感覚が身についてきているな」
レオンが満足げに頷く。
「ありがとうございます。力を集中させず、体全体で受け止めるイメージを意識しました」
「それでいい。余計な力を込めず、自然に歌を響かせることが重要だ」
訓練が終わり、休憩を取っていると、リクがやってきた。
「お、順調そうじゃん、セリア!」
「うん、少しずつだけど安定してきたよ」
リクがニコニコしながら話していると、訓練生たちが遠巻きに話している声が聞こえてきた。
「本当に制御できるようになったのか?」
「でも、リクが言ってたこともわかるし……」
「異端かどうかはともかく、あの力は必要なのかもな」
少しずつではあるが、仲間たちの見る目が変わりつつあるのを感じた。
リクが誇らしげに胸を張る。
「な、言った通りだろ。セリアはやればできるんだ!」
「ありがとう、リク。本当にあなたがいてくれて助かった」
「おう、任せとけって!」
昼食を取っていると、アイリスがやってきた。
「セリア、少しいいか?」
「はい、隊長」
「団長から連絡があった。南方の村で魔物の目撃情報があり、討伐隊を派遣することになった」
「魔物ですか……」
「今回は支援部隊として参加してもらうが、セリアも後方支援として同行することになった」
「えっ、私も?」
「君が制御できるようになってきたことが評価されている。だが、無理はしないように」
アイリスの言葉に、セリアは緊張しながらも小さく頷いた。
(私が……実戦に出る。もう逃げられない)
その夜、セリアは寮の自室で歌唱杖を握りしめていた。
(力が暴走したらどうしよう……でも、みんなを守りたい)
不安と決意が交錯し、眠れない夜を過ごしていた。
その時、カイルが窓からひょっこりと顔を出した。
「おーい、寝てるか?」
「カイルさん!? どうしてここに……」
「散歩してたら光が見えたからな。調子はどうだ?」
「実戦に出ることになって……怖いんです」
カイルは面倒くさそうにため息をつきながら、部屋に入ってきた。
「力を恐れてどうする。お前は守りたいんだろ?」
「はい……」
「だったら、力を使わなきゃ意味がない。制御を学んだんだろ? 信じて戦え」
カイルの言葉に、少しだけ勇気が湧いてきた。
「私、やってみます」
「そうこなくっちゃな。まあ、危なくなったら俺が助けてやるさ」
軽口を叩きながら去っていくカイルを見送り、セリアは静かに決意を固めた。
(もう、逃げない。私が守るために戦うんだ)
翌朝、討伐隊が王都を出発した。
セリアは後方支援部隊に入り、レオンやリクと共に歩いている。
「緊張してるか?」
「はい。でも、怖がってばかりじゃだめですよね」
「その意気だ。何かあれば俺が前に出る。君は支援に徹してくれればいい」
レオンの言葉に安心し、少しだけ笑顔が戻った。
南方の村に到着すると、住民たちが不安げな表情で出迎えた。
「魔物が森の中に現れて……畑を荒らしているんです」
「まだ村に被害は出ていないが、何頭かが森から出てくる可能性がある」
レオンは冷静に指示を出し、剣士部隊を前線に配置した。
「歌詠士部隊は後方支援に徹し、怪我人の救護を優先する」
セリアは緊張しながらも、歌唱杖を握りしめた。
(大丈夫、私は歌でみんなを守れる)
その時、森の奥から不気味な鳴き声が響き、黒い影が現れた。
「出たぞ! 準備しろ!」
レオンが剣を構え、剣士たちが前に出る。
「――力の風よ、仲間を包み、速さを与えよ!」
セリアが歌を響かせると、剣士たちの動きが軽快になり、攻撃が速くなる。
「助かるぞ、セリア!」
リクが前線で応え、魔物に斬りかかる。
次々と現れる魔物を撃退しつつ、セリアは支援歌を続ける。
(私は負けない。この力で、仲間を守る)
その思いが、歌声に力強さを与えていた。




