19. 歌が裁く仲間の証
朝、神詠騎士団の訓練場に爽やかな風が吹き抜ける中、セリアは一人で歌唱の制御訓練をしていた。
(昨日の実戦形式訓練で、力を分散させるコツが少しわかってきた……)
歌唱杖を握りしめ、軽く歌を口ずさむ。
「――癒しの風よ、静かに流れ、命を守れ……」
柔らかな光が広がり、バリアが安定して形成される。
(よし……落ち着けば、力を抑えられる)
セリアが自分の成長を実感していると、リクが駆け寄ってきた。
「お、調子良さそうだな!」
「うん、少しだけコツが掴めたかも」
リクがニッと笑い、親指を立てる。
「やっぱりセリアはすげえよ。俺、信じてたぜ!」
「ありがとう、リク……」
その時、近くで訓練していた同期たちが、ちらりとこちらを見ているのに気づいた。
昼休憩、食堂に入ると、また周囲の視線が痛かった。
(まだ、私のことを怖がっているんだ……)
リクが席を確保しようとした時、隣のテーブルで数人が話している声が聞こえてきた。
「あいつ、制御できるようになったって言ってるけど、信じていいのか?」
「暴走したら、俺たちが巻き添えだろ?」
「異端者と同じ力かもしれないし……」
リクが立ち上がり、思わず声を上げた。
「おい、お前ら、いい加減にしろよ!」
その声に、食堂全体が静まり返る。
「セリアの力が危険だとか異端だとか、勝手に決めつけてんじゃねえ!」
「で、でも実際に暴走したじゃないか!」
「それは、力をうまく使えなかっただけだ! 今、必死に制御を学んでるんだぞ!」
リクの必死な訴えに、同期たちは戸惑った表情を浮かべる。
「お前ら、セリアの力が怖いってだけで否定してるけど、あの黒炎獣を倒したのもセリアなんだぞ?」
「それは……確かにそうだけど……」
「じゃあ、もしあの時セリアがいなかったら、俺たち全員がやられてたんだ。あいつの歌があったから助かった。それを忘れたのか?」
リクの真剣な眼差しに、訓練生たちは言葉を詰まらせた。
「俺はセリアを信じる。たとえ異端だとか言われても、セリアが命をかけて戦ってくれるって知ってるからだ!」
その言葉に、周囲がざわめき始める。
「確かに……セリアがいなければ、あの時俺たちは全滅してたかもしれない」
「危険だってのもわかるけど、セリア自身が制御しようと努力してるんだし……」
少しずつ、同期たちの中でセリアを理解しようとする気持ちが芽生え始めた。
その日の午後、レオンとアイリスが訓練場で見守る中、セリアは模擬戦形式の訓練を続けていた。
「――守護の風よ、力を分け合い、仲間を守れ!」
光のバリアが形成され、レオンの斬撃を受け止めた。
「いいぞ、そのまま力を流し続けろ!」
アイリスが的確に指示を出す。
訓練を見ていた他の隊員たちが、少しずつ感心した表情を見せ始めた。
「おい、あの光……安定してないか?」
「確かに、前みたいに暴走してないな」
「もしかして、本当に制御できるようになってきたのか?」
レオンが最後の一撃として、聖剣クラウディアに力を込めた。
「これが最後だ。準備しろ、セリア!」
「はい!」
レオンの斬撃が光の波となって襲いかかる。
「――守護の光よ、全てを包み、力を和らげよ!」
バリアがさらに強化され、光の波を吸収して安定させた。
「やった……できた!」
セリアが歓喜の声を上げると、レオンが満足そうに頷いた。
「よくやった、セリア。完璧だ」
訓練が終わり、リクが駆け寄ってきた。
「すげえじゃねえか、セリア! あれだけの光を抑えたなんて!」
「ありがとう、リク。あなたのおかげで、少し自信が持てた」
「いやいや、セリア自身が頑張ったからだろ」
二人の笑顔を見て、訓練生たちが少しずつ近づいてきた。
「セリア、すごかったな」
「さっきは悪かったよ。お前が努力してるの、ちゃんと見てなかった」
「その力、ちゃんと使いこなせたら頼りになるよな」
少しずつだが、周囲の空気が和らいでいくのを感じた。
夜、寮の中庭で星を見上げていると、レオンがそっと隣に立った。
「今日はよく頑張ったな」
「はい。少しだけ、自分を信じられるようになりました」
「それでいい。仲間たちも少しずつ理解してきている。焦らず、ゆっくり信頼を取り戻せばいいさ」
レオンの温かい言葉が、セリアの心を優しく包み込んだ。
(私、まだまだだけど……この力を守るために使いたい。信じてくれる人たちのために)




