18.歌が裁く選択の時
翌朝、神詠騎士団の朝礼が始まる。
セリアは列の中に立ちながら、昨日の出来事が頭を離れなかった。
(私が隔離されるかもしれない……)
そんな不安が胸を締め付ける。
レオン副団長が壇上に立ち、声を張り上げた。
「今日からセリア・ライトフォードは制御訓練に専念するため、実戦任務から外れる。これ以上、無用な憶測を立てることは許さない」
厳しい声での宣言に、訓練生たちがざわめいた。
「やっぱり危険だから隔離されるんだ……」
「でも黒炎獣を倒したのも事実だし……」
「異端の力なのか、それとも加護なのか……」
セリアはその声を聞き、肩をすくめた。
(私の力が怖いと思われている……)
訓練が始まると、セリアは一人で制御練習をしていた。
歌唱杖を握り、呼吸を整えて歌を口ずさむ。
「――癒しの風よ、静かに流れ、命を繋げ……」
光が柔らかく広がり、暴走の兆候はない。
(少しずつ、安定してきている……)
その時、リクが駆け寄ってきた。
「セリア、大丈夫か?」
「うん……訓練には集中できてる。でも、みんなが私をどう見ているのか、怖くて……」
リクが力強く頷いた。
「俺は信じてるぞ。セリアの歌が異端なんかじゃないって」
「ありがとう、リク。でも、私自身が信じられない……」
セリアは涙をこぼしそうになり、必死に耐えた。
昼休憩、食堂に入ると、周囲の視線が冷たい。
「ほら、あれが異端の歌を持つ子だって」
「危ないから近寄らない方がいいってさ」
ひそひそと囁かれる声が痛かった。
リクが怒ったように声を上げる。
「いい加減にしろよ! セリアはそんな危険な奴じゃない!」
「でも、黒炎獣を倒した時、あの光、普通じゃなかっただろ?」
「異端者が言ってた“解放”の力なんじゃ……」
リクが食堂のテーブルを叩きつけようとした時、レオンが止めに入った。
「騒ぐな、リク。セリアがどれだけ努力しているか、知っているだろう」
「でも、副団長、あいつらがセリアのことを……」
「気持ちはわかる。しかし、感情でぶつかっても意味がない」
レオンの冷静な声に、リクは悔しそうに唇を噛んだ。
夜、寮の中庭でセリアは一人、星空を見上げていた。
(私が異端かもしれないって……そんなの、嫌だ……)
その時、カイルが現れた。
「こんな夜中にまた悩んでるのか?」
「カイルさん……」
「隔離の話、聞いたぜ。お前、どうするつもりだ?」
セリアは答えに詰まり、目を伏せた。
「私、自分の歌が怖いです。みんなに迷惑をかけるかもしれないと思うと……」
カイルはため息をつき、木の根元に座り込んだ。
「怖いのは当たり前だ。けどな、恐れから逃げても何も解決しない」
「でも……」
「歌の力が危険かどうかを決めるのは、お前自身だろ?」
カイルの言葉にハッとした。
「歌を使うたびに周りが怖がるなら、俺ならむしろ制御を完璧にして見返してやるけどな」
「見返す……?」
「そうだ。誰がなんと言おうと、使いこなせるって証明すればいい」
その言葉に、セリアの胸の奥が熱くなった。
「私……もう逃げたくない。自分の歌を信じたい」
カイルはニヤリと笑った。
「その意気だ。だったら、もう泣き言は言うなよ」
「はい!」
翌日、訓練場でレオンが待っていた。
「セリア、準備はできているか?」
「はい。私、もう逃げません」
レオンは微笑んで頷いた。
「よし、今日からさらに実戦形式の制御訓練を増やす。力を引き出しながら暴走を防ぐ方法を模索するぞ」
「お願いします!」
レオンが剣を構え、光の斬撃を放つ。
セリアは落ち着いて歌を放ち、光のバリアで受け止めた。
「――守護の風よ、静かに包み、力を和らげよ!」
衝撃がバリアを叩くが、安定して吸収している。
「いいぞ、その調子だ」
次にレオンが突進してくる。
「攻撃を逸らすバリアも試してみろ」
「――流れる風よ、力を流し、剣を逸らせ!」
バリアが斜めに張られ、レオンの剣を滑らせた。
「うまくできた……!」
「その感覚を忘れるな。流すように、力を抑えるんだ」
セリアの心には、確かな手応えが芽生えつつあった。
(私の歌は異端じゃない。誰かを守りたいという気持ちが、きっと正しいはず)




