002.庭で思わぬ騒動が!
お腹が膨らんだ当初は「歩いて何かあったら」と心配したシリルも、お医者様に「動かないほうが心配です」と叱られて変わった。過保護なのは同じでも、歩いて運動することを認めてくれたの。足元が見えないので、ゆっくりと進む。一歩ずつ確認して踏みしめ、まるで歩き方を覚えたばかりの幼子みたい。
「その先で休もう」
シリルの言葉で、荷物を抱えた侍従が動き出す。先回りして天幕を張った。屋根はあるけれど、壁はないタイプのテントね。風が通るので、休憩用に最適だわ。下に絨毯を敷いて準備したら……今度は壁代わりの薄布を取り付け始めた。
「……テントにするの?」
「日差しが強いからね」
体勢
暑い時期ではあるけれど、理由は違うのかも。だって薄布は黒だもの。これって見えにくくする工夫よね? 王宮主催の狩猟大会で、ディーお義姉様が使っていたっけ。シリルの好きにしたらいいわ。
お腹に気を付けながら、絨毯に山積みされたクッションへ腰を下ろす。シリルに抱き着いて、脇や腰を支えてもらい、後ろに転がった時の用心でラーラが控える。万全の体勢で座った。
「足を出してごらん」
シリルは私の靴を脱がせ、足を揉み始めた。片膝をついたシリルの腕が、ふくらはぎから足首まで丁寧に解していく。
「ありがとう、シリル」
「気にしないで。マリーが苦労しているのは、僕のせいでもあるし」
妊娠のことを言ってるの? 誰のせいとか考えたことないわ。でも原因がシリルなのは間違いないので、ふふっと笑って流した。うっすら滲んだ汗を、ラーラが丁寧に拭き取っていく。後ろに手をついて、のけぞるように寛いだ。
「そのまま寝転がってもいいよ」
「うーん、起きるのが大変だから」
「僕が起こすから安心して」
シリルが請け合うので、言葉に甘えて寝転がる。ラーラがクッションを移動して、楽な姿勢を作ってくれた。上半身を軽く持ち上げた感じね。完全に横たわっていないけれど、座っているより後ろに倒れた感じ。視線の先で、天幕が揺れる。
風がすごく気持ちいい。……んっ! なんだろう、お腹が痛いかも。気になって撫でていると、気づいたシリルが顔を寄せた。
「マリー? お腹がどうかした?」
「う、ん……痛いような、こう……押される感じがして……っ! いたぁ!!」
突然の激痛に、叫び声が上がった。さっと動いたのはラーラだ。侍従に医者を呼ぶよう伝え、私の姿勢を変えた。足のほうにもクッションが入り、お尻を下にして折れ曲がった感じね。少し楽な気がする。
「うぉおおお!」
叫びながら走ってくるのは、お母様より年上の医者だ。どうしても女性でなければ認めない、そう主張したシリルが見つけた貴重な女の先生よ。鞄を手に駆け寄った彼女は、私の脈を取った。慎重に痛みの間隔を測って、笑顔で宣言した。
「陣痛です! 生まれますよ」
え? 生まれちゃうの?