97.横抱きされて愛を囁く日まで(本編完結)
帰りはあっという間だった。結婚式後に帰国する来賓が多かったようで、まとめてお見送りされる。がたごと揺れる馬車は大きな群れとなって放たれ、少しずつ減っていった。途中で道が分かれて、最後は私達と二つの国だけ。
今度は私達が群れから離れる番ね。お父様に大きく手を振って別れた。寄っていくかと聞いたら、国を長く空けられないからと。国王陛下という立場は、それだけ重いのね。もうすぐお兄様に代替わりするから、その後は会いに来てくれる約束を貰った。
城が視界に入ると、嬉しくて立ち上がる。シリル様に「危ないから」と止められ、座る場所を変えた。こちら側からなら、よく見えるわ。徐々に近づく城が賑やかになる。出迎えに立つのは、ディーお義姉様みたい。執事や侍従、侍女も集まってきた。
「すごいわ、まるで重鎮の帰還ね」
「王弟夫妻は重鎮だからね?」
何を言ってるの。呆れたと顔に書いて、シリル様が首を横に振る。やれやれと思っているのかしら? でもそんな私を選んだのだから、積極的に苦労して頂戴。
「ねえ、シリル様。まだ身長伸びるかしら」
「僕の?」
「ええ」
「たぶんね」
一気に成長したせいで痛む肘を撫でて、シリル様が頷いた。あと少しで背が並ぶ。追い越されて、逞しくなって、いつか横抱きにしてほしいの。恋愛小説だと「お姫様抱っこ」と言うのよ。そんな話をしながら、門をくぐる。
「マリー姫様の仰せのままに。鍛えておこうか」
こうやって否定せずに、私を受け入れてくれる。飾らなくても、少しお馬鹿でも、シリル様は私を否定しなかった。生まれてから一緒の家族ならわかるけれど、本当は怖かったのよ? この国に来た時、夫はどんな人だろうと想像した。
あの時、震えながらくぐった門は、今では笑顔で「ただいま帰りました」とくぐる場所になった。これからも、ずっとシリル様のいる場所が、私の帰る場所になるの。
「大好きよ、シリル様」
「残念だけど、僕のほうが愛しているよ。マリー」
あなたが大きくなって、横抱きにしてくれる日を待っているわ。首に腕を回して抱き着いて、その耳元に囁くの。 ——シリル様を愛しているわ、って。
「……マリー?」
「なんでもないわ」
今はだめ。立派な紳士になって、初夜をやり直せるまでお預け!
馬車が止まり、扉がノックされる。シリル様は怪訝そうにしながらも許可し、先に降りた。その後ろに続きながら、隣に並ぶ。うん、あと二年くらい? もう少し後かな。それも楽しみだと思うし、たくさん愛情を伝えて仲を深めておこう。
強欲だと思い込んでいる、可愛い旦那様に愛される日まで。
終わり
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本編完結となります。お付き合いありがとうございました。数年後のラブラブ夫婦になった番外編を載せる予定です。あと少しだけ、よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
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