96.お手紙はどうかしら
お父様ともお話しできた。私が幸せなこと、お兄様から聞いていたみたい。誤解が解けて謝ってもらったことも、教えてもらった。真剣な顔で二人が話していたのは、その件だったのかも。
お姉様は神殿に籠っていて話せないけれど、またお会いできる日を楽しみにしましょう。お手紙を書いて置いていくことにした。部屋へ戻る私に、お父様から封筒が渡された。受け取って裏返すと、お母様のイニシャルが入っている。
「お母様?」
「そうだ。渡してくれと頼まれた。渡したからな?」
念を押さないで頂戴。なくしたこともあるけれど、今回は大丈夫よ! シリル様と腕を組んで戻った部屋で、手紙を開封した。心配していたけれど、仲が良くてよかった。お兄様から話を聞いて、すごく安心したみたい。敵国ではないけれど、賠償で嫁いだんですもの。心配させて悪かったわ。
「これからはご両親や兄君、姉君にまめに手紙を書いたらどうだろう。マリーは手紙が苦手?」
「いえ。苦手ではないの。会ってお話しするほうが好きだけれど……たくさんお手紙を出すわ」
そうしたらお返事があるでしょう? 手紙は手元に残るから……! そうだわ、シリル様ともお手紙を交換したらどうかしら。
「シリル様、私達もお手紙を交換しましょう」
「毎日、一緒に眠って食事を取っているが……」
「その気持ちが手元に残るのは、素敵ですわ」
「そうだね、マリーの言う通りだ」
ぼそっと追加で聞こえた物騒な部分「閉じ込めるつもりだったけど」は聞こえない振りをする。閉じ込めてもいいのよ? 私は隙間を見つけて、するりと外へ出る。追いかけてきてくれるでしょ?
「悪いことを企んでいる顔だね」
「素敵なことを考えていたの」
疑いの眼差しを向けるシリル様は、やれやれと首を横に振った。まるで私のほうが子供みたい。許してあげる大人の余裕で、シリル様に頭をポンポンされた。
ふふっ、シリル様が大人になったら、私は逆に子供になっちゃいそう。妙な想像をして笑い、緩んだ頬を摘ままれる。痛くないけれど、痛いような感じ。
ベッドの上を転がってじゃれていたら、ラーラが悲鳴を上げた。
「妃殿下! ドレスに皺が!!」
「ご、ごめん……なさい」
慌てて飛び起きて、シリル様と二人で反省した。畳んで持ち帰るドレスは、これから手入れをする。それなのに皺だらけにしたら、手間が増えてしまう。謝ったら、ラーラは許してくれたけれど……着替えたドレスを確認して大きく溜め息をついていた。
次からは気を付けるわ。
反省しながらもお父様への手紙を書いて、アーサーに運んでもらった。明日の朝は出発時間が早いから、お風呂に入って寝なくちゃね。