90.姉妹水入らずの時間
お姉様が部屋に訪ねてくれたので、申し訳ないけれどベッドに座って話し込む。シリル様はご挨拶があると仰って、外へ出てしまった。気を遣ってくれたのかしら? こういうところ、さりげなくて優しいのよね。
「惚気るほど仲が良くて、安心したわ」
お姉様はふふっと笑う。赤毛で目の色も同じ金色なのだけれど……お姉様の雰囲気が柔らかいから、私とは雰囲気が全然違った。豊穣と愛の女神アルティナ様のお姿に似ているのよね。
「お姉様もご結婚おめでとうございます。お幸せになってくださいね」
「ええ。あなたの祝福が本当に嬉しいわ。犠牲にしたのではないかと、気になっていたの」
首を傾げて、何のお話かしら? と問いかけた。お姉様によれば、年齢的にも自分がソールズベリー王国へ嫁ぐべきだと考えたみたい。好いた第三王子殿下とはまだ婚約したばかり、政略ではないから賠償のほうが優先される。私も同じように考えたから、立候補したんだもの。
「気遣ってくれるマリーを差し出した形になって、心苦しかったのだけれど……」
「お手紙を出しましたでしょう? 皆様が優しくしてくださって、誤解も解けて、すごく幸せですよ」
にこにこと語る。誰に聞かれても同じ答えになるわ。だって、本当に幸せなんですもの。今回シリル様と仲良く登場して、私が惚気たことで、安心してくれた様子ね。
「クリスお義兄様は、王妃のディーお義姉様と仲がいいから……側妃にならなくて正解です」
「側妃? 何を言ってるの。アリスター王弟殿下に嫁ぐと聞いたわよ? 年齢差がさらに開くから、周囲が迷っていたの」
「え? シリル様と?!」
「……その呼び方は愛称なの?」
「え、ええ」
お姉様の爆弾発言と、呼び方の話と……頭が爆発しそう。お姉様がシリル様と? 冗談じゃないわ、絶対に渡さないんだから!
「変な妄想しないで。私はヨハン様一筋よ」
ぴんとおでこを弾かれて、がくりと項垂れた。そのままベッドに寝転がる。整えられたシーツが皺になっちゃうけれど、シリル様なら許してくれるわ。ごろごろと左右に転がって、なんとも表現しようのない感情を発散する。
「しっかりなさい! ソールズベリー王国の王弟妃でしょう?」
「うん……もう少ししたら復活するから」
幼い口調になった私を、お姉様が抱きしめて寝転がった。こんな風に過ごせるのは、もう最後かも。お互いに王族として、他国の王家に嫁いだんだもの。なかなか会えなくなる。寂しさから、昔のように抱き着いた。
「甘えん坊ね。マリー、忘れないで。私はあなたの味方よ。何かあったら頼ってね」
「はい、お姉様……私も大好きなお姉様の味方になります」
涙は出なかったけれど、昔の話をしながら寝転がって。子供に戻ったような時間を過ごせた。本当に、絶対に、幸せになってね!




