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09.ディーお義姉様にバレちゃった

 翌日は朝から忙しかった。お披露目は数日後、夜会の形で用意されている。その夜会で着用するドレスの試着から始まった。仮縫いまで済んでいたドレスを、大急ぎで調整する。


「こちらをもう少し詰めて。そこは緩めていいわ」


 お針子達が大忙しで、デザイナーの指示に従って動く。ここまでは普通な気がするのに、ディーお義姉様が指揮しているのは、なぜかしら? 


「あら当然よ、私がデザインしたの」


 趣味の一環だというけれど、すごく綺麗なドレスだわ。体に沿う形だけれど、下品ではない。腰のところから巻き付く形で裾までフリルが繋がる。それがまるで魚のヒレのようなの。すごく自然で、見た目より動きやすい。


 思いつく限りの賛辞を並べたら、ディーお義姉様は嬉しそうに微笑む。このドレスと色や素材を対にして、シリル様の衣装も仕立てたそうよ。ソールズベリー王国では、何か大きな行事があるたびに衣装を仕立てる。


 母国ヴァイセンブルクでは、季節ごとに仕立てるのが主流だった。定期的に作るから、色などを家族で被らないようにしたり、逆に似せて揃えたり。直前に慌てずに済むよう、お飾りも一緒に手配するのが一般的なの。


 毎回、何か行事があるたびに呼ばれるなら、お針子達も大変ね。そう思っていたら、彼や彼女達はお城の専属だった。侍女や騎士など、城で働く人の服を一手に引き受けているらしい。直しもあるでしょうから、一年中安定して仕事があるのね。


 違いに感心していると、ディーお義姉様が突然、ソベリ語で指示を出した。


『そこは、もっと下……そう、この辺りがいいわ』


 飾りのビーズの取り付け場所みたい。仮縫いドレスを私に合わせ、考えている。今の位置より、この辺がいいんじゃないかしら。思った言葉がぽろりと溢れでた。


『そっだら、ごごでえんでねが?』


 胸元を指差して口から溢れたソベリ語に、慌てて手で覆った。いけない、ディーお義姉様に釣られたわ。これはシリル様に叱られてしまう。


『……、いいわね、そうしましょう。仕上げて頂戴』


 ディーお義姉様の指示で、ドレスが片付けられる。私は下着姿のまま、動けずにいた。後ろのラーラはおろおろしている。部屋着を私に被せようとして、動かない私に眉尻を下げた。腕を差し出し、袖を通す。


 手際よくワンピースを着たところで、ディーお義姉様が振り返った。


『ソベリ語、話せるのね?』


『は、はいぃ……ただ、シリル様がだめんだっでおっじゃるで』


 夫に従うのが妻、そう育てられた。シリル様が使うなと言うなら、ソベリ語は封印するのが私の立場だ。ぼそぼそと説明すれば、ディーお義姉様がにっこりと笑った。


『聞き取りはできるのでしょう? なら問題ないわ』


 満面の笑みで、ディーお義姉様からも母国語で釘を刺された。


「次からは話せないフリをなさって。そうね……情報収集の一環だと思えばいいわ。あなたがソベリ語を使えないと思ったら、ぽろりと余計な一言を足してくれるかもしれないでしょ?」


「はい、そうします」


 なるほど。それでシリル様も二人きりの時以外は使わないよう、仰ったのね。確かに貴族を油断させる方法として、最適だわ。

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