88.二つの祝福の意味 ***SIDE女神アルティナ
神々の祝福は気まぐれ……そう思うのも無理はない。それぞれの神が祝福できる回数は限られていた。だからお気に入りを選んで、幸運や祝福を送る。生まれた時から真っすぐに、大地に根差して空を仰ぐ子だった。嘘をつくくらいなら、黙って口を手でふさぐ子よ。
「なるほど、君が気に入るわけだね」
全能神ゼシウスが、穏やかな口調で呟く。結婚式で緊張するあの子に、私は精いっぱいの祝福を注いだ。豊穣と愛の女神である私、アルティナの象徴であるピンクの花を撒く。当たり前のように金の光を降らせたゼシウスは、あれから夢中になって地上を眺めていた。
自ら祝福したのは、どれくらいぶり? 私も珍しいけれど、ゼシウスはもっと珍しいわ。生まれてから成長を見守った私と違い、突然の思いつきで祝福した。ゼシウスの考えはわからないけれど、機嫌よく毎日あの二人を眺める。飽き性なのにね。
「ゼシウス、なぜあの子を祝福したの?」
「あの子? ああ、なるほど。アルティナは勘違いしている。僕が祝福したのは、アリスタ―だからね」
「……アンネマリーではなく?」
満足げに頷く姿に、私は視線を地上へ向けた。水鏡に映した光景は、愛らしい二人の幸せそうな姿が中心よ。周囲に幸せをばらまき、自覚なく巻き込んでいく。
邪悪な者ほど、明るい光を好む。触れれば焼けるというのに、焦がれて手を伸ばした。今回の事件も同じね。アリスターに惹かれた羽虫が纏いつき、自滅して身を焼いた。私のアンネマリーに実害がなかったからいいけれど、もし傷つけていたら関与するところだったわ。
「君が無茶をすると困るから、ちょっとばかり……ね」
くすっと笑うゼシウスは、あの王女か周辺にちょっかいを出した様子。ひらりと衣を揺らして、私は彼の隣に腰掛けた。
「幸せな姿を最期まで看取りたいと思ったのは、この子らぐらいだし」
ゼシウスの善良そうな言葉の裏に、腹黒さが滲む。神々の権力争いに、私を巻き込む気ね? そのための布石だとしても……アンネマリーの幸せに貢献するなら、少しばかり協力してもいいわ。そんな気持ちで微笑んだ。
人の一生は瞬きほどの時間。本当に僅かだから、見逃さないように水鏡へ身を乗り出した。成長した二人が結ばれて、可愛い子供を抱いて、最期に「後悔のない幸せな人生だった」と思ってくれるように。私達のもたらした祝福が、高い効果をもたらすように。
人に関与する権限がもう少し強かったら、私の巫女に祀り上げたかも。でも……今のままで十分に幸せそうだわ。ゼシウスの思惑を知りつつも、感謝してしまうくらいにね。




