85.私の素敵な王子様 ***SIDEカルロータ
素敵な王子様を見つけた! 彼こそ私の理想だわ。艶のある黒髪に透き通った青い瞳、なんて素敵なのかしら。あの方と結婚したいわ。私の望みはなんだって叶う。いつもお父様が「愛しているよ、私の天使」と呼んで、何でも与えてくれた。
この国は、そーるず……なんだっけ? とにかくお父様の国の友好国になるの。友好国ってことは、仲良くしてねとお願いしてきたんだわ。だったら私達のほうが立場が上ね! 彼と結婚したい、と騒いだら邪魔された。
隣の赤毛の女は誰なの? 金色の瞳なんて、人間じゃないわ。化け物の色じゃない! 最低よ。そう叫びそうになった私を、使節団の貴族が止める。なんなの? 不敬よ!! 騒ぐ間に外へ出された。
「カルロータ王女殿下、先ほどの方は王弟殿下だそうです」
「まあ、身分的に我慢できるわね。属国の王位も継げない王子でも、私を妻にすれば地位が上がるわ」
侍女の言葉に微笑みながら口にした言葉に、使節団の団長が騒いだ。たかだか侯爵程度がうるさいわよ! お父様に言って爵位を取り上げちゃうから。先ほどの宴会場から離れた部屋に通されたけれど、大丈夫よ。この国には私の機嫌を取りたい人がいっぱいいるの。
大人しく眠った振りをして、夜中に抜け出した。案内の者について、ガウン姿で王宮内を横切る。不思議と人に出会うことはなかった。護衛も侍女や侍従などの使用人も、まったく姿がない。人払いをするなんて、よくできた臣下じゃないの。あとでお父様に伝えておくわ。
忍び込んだ部屋で、なぜか金目女が王子様のベッドに潜り込んでいた。なんて破廉恥なの? そう思うのと同時、王子様に短剣を突き付けられる。
「……怖いです、アルスター様」
覚えてきた名前を口にしたら「無礼だ」と切り捨てられた。属国の王子風情が何なのよ!! もう! 騒いでも叫んでも無視され、牢へ放り込まれた。すぐに近くの牢へ使節団も連れてこられる。文句を言われたって知らないわ。
私はかの有名なサルセド王国一の美女で、お父様最愛の末姫なのよ? ここから出しなさい!! 力の限り騒いで、夜が明けた。かろうじて光が入る天井近くの窓から、冷たく湿った空気が入ってくる。ブルりと震えて肩を抱いた。
食事は三食出るし、寝る場所もある。でもベッドはなくて硬い床にマットを敷いただけで臭い。これはカビの臭いなの? 初めて嗅いだわ。顔を歪めて、でも我慢できずに寝たら体が痒くなった。最悪!
出せ! 毎日叫んで疲れて言葉が出なくなった頃、突然外へ出された。使節団や使用人はおらず、私だけよ? どうしたらいいのか、まずはお風呂に入って体を清め、綺麗に着飾らないと。あの方に会えない。アルスター様は待っていてくれるかしら?
夢見る私を迎えに来たという従者について、私は横づけにされた馬車に乗り込んだ。乗り心地が悪いけど、田舎の国だから仕方ないわよね。




