81.美味しく食べられるって幸せね
顔の腫れが引いたので、ディーお義姉様のお誘いを受けた。この国ではお昼はほんの少しで、午前と午後のお茶の時間にしっかり食べる。ある意味、おやつが昼食に近いかも。食事を四回に分けて食べる感じね。ヴァイセンブルクでは、お茶会は午後だけ。それも軽いおやつ程度だったわ。
文化の違いも慣れてしまえば、当たり前になるわ。私のお腹も、すっかりソールズベリー仕様になった。お茶の時間になると、ちゃんとお腹が空くの。
「今日のスコーンは新作なのよ。感想を聞かせて頂戴、厨房の皆が喜ぶわ」
私が口にした感想や希望を集めて、料理人に伝えたら喜んでくれた。ディーお義姉様はそう言って、新しいスコーンを取り分けた。もちろん、たっぷりのクリームで頂く。試食ならそのまま味わって、次にクリームで……となるのかも。私は添えられたジャムやクリームも、一緒に頂くことにしている。
セットで並んでいたら、一緒に食べてこそ完成だと思うの。ジャムではなく蜂蜜かクリーム、選択肢が限られていたので、まずクリームから。チーズかな? クリームの味が濃い。代わりにスコーンはあっさりしていた。
「クリームがすごく美味しいです」
「いつもより小さめに食べているけれど……なにか苦手?」
「いえ。まだちょっと、痛くて」
大きく口を開けて食べると、引っ張られて内側の傷が痛いの。素直に伝えると、ディーお義姉様が苦笑いを浮かべた。でもほっとしたような感じもする。
「よかったわ。こっちの蜂蜜は香りが強いのよ」
勧められて、スコーンに合わせる。うーん、思ったのと違う。迷って次はクリームと蜂蜜を合わせて、贅沢に味わった。
「ディーお義姉様、この組み合わせすごいです! 口が幸せ!!」
頬張るとまだ痛いのに、口いっぱいに放り込んでしまった。痛いのと美味しいのと甘いのと……様々な感情が入り混じって、頬を両手で包んだ。ああ、美味しい。ご飯がちゃんと食べられるって、本当に幸せだわ。
「やっぱりマリーは舌が肥えているわ。あなたが絶賛する通り、本当に美味しい」
ディーお義姉様も驚いた顔でしっかり味わい、二つ目に手を伸ばした。お仕事のシリル様が一緒じゃなくて残念だけど、お土産に持って帰れないかしら?
「ディーお義姉様、これ持って帰っていいですか?」
「アルの分は用意してあるわ。クリスと食べている頃よ」
「でもいくつか持ち帰りたいです」
お願いして用意してもらった。こんなに美味しいんだもの! ラーラに食べてもらって、アーサーやダレルにも差し入れましょう。包んでもらったお菓子を手に、うきうきと部屋を出る。箱を預かるラーラに美味しさを説明しながら歩き、自室に戻って気づいた。
逃げて捕まったサルセド王国の人達の話、聞き忘れちゃったわ。




