80.厳罰を望むわ ***SIDEシンディー
「あなた、わかっていますね? 厳しくお願いします」
眉間に寄せた皺を気にしながらも、厳しく言い渡す。もし手加減したら、ただでは済みませんから。そう匂わせたけれど、クリスも怒っているから平気ね。軽い処罰はあり得ないわ。
サルセド王国の第三王女カルロータは、可愛い義妹マリーを傷つけようとした。幸いにしてあの子は強いから、気にしていないみたいね。無邪気で少し抜けていて、人を許し愛することを知る素敵なマリー。義弟のアルの性癖も受け入れた。
申し分のない王弟妃なのに、その座を奪おうだなんて。襲われかけたアルの心配はしない。アルは強いだけでなく、他人にも自分にも厳しいから。あの王女を許そうとしないでしょう。神童と呼ばれ、一時期は王位継承を兄と争うほど頭が回る。
先を読んで、自ら臣下に降ることを望んだ。国を分かつ争いは、まだ若いこの国にとって害にしかならないと言って、政略結婚も受け入れたほど。賢すぎて、可哀想になるわ。そんなアルが唯一欲しいと望んだのが、妻となったマリーだった。
万が一にも揉めたら、マリーの味方をするつもりだったの。でもマリーは受け入れて、アルを可愛いと言うのよ? お茶会での発言に、心底驚いたわ。
過去の思い出に浸る私に、クリスは地を這うような声を出した。
「厳罰は当然だ。しかし、サルセド王国から王女返還の要請があった」
「応じるの?」
「ああ、ただし……王女だけ返却する」
返還が返却になったわ。品物扱いは無礼だけれど、まあ理解できるわ。あの頭が湧いたおかしな小娘を人扱いするのは、難しいもの。視線で続きを問う私に、夫は平然と残酷な決定を口にする。
「王女を返せと言われたら、王女だけ放す」
野放し……いえ、放置ね。それも国境付近ではなく、普通に城の門から解き放つらしい。騒ごうが「返せ」と言ったのはサルセド王国だから、我々は関知しない。結末を見届けるための監視はつけるが、それ以上は何もしないと告げた夫の口元が弧を描いた。
残酷なようだけれど、これが執政者よ。私も王妃になるべく育てられ、専門の教育を受けた。新興国に過ぎないソールズベリー王国が生き残るには、他国に舐められた終わりなの。
「少し甘いのではなくて?」
「そうでもない。サルセド王国の王女を放逐する場所と時刻は、各国に通達するからな」
なるほど。どうなるかは彼女の運命次第。おそらくどこぞの国に捕獲されて、利用されるでしょう。あの枯れた土地を欲しがる周辺国はなくても、恨みを持つ国はあるから。首を刎ねて戦を起こすわけにいかない以上、他国に報復を任せるのも……。
わかっていても、感情は嫌だと騒いでしまう。処刑場で泣き叫んで首を落とされるところでも見ないと、満足できないわ。
「同じ気持ちだ、我慢してくれ」
あらやだ、顔に出ていた? 私もまだまだね。抱き寄せたクリスの肩に頬を寄せて、彼の腰に腕を回した。




