79.次は返り討ちにする ***SIDEシリル
「アル殿、マリーをよろしく頼みます。予想外のことをしでかす子だから、目を離さないであげてください」
見送った義兄上の発言は、まるで何もかも見通しているようだ。マリーは本当に予想外の塊だった。出会ってからずっと、驚かされている。その上、僕の執着を知っても怯まなかった。そんなの、大事にするしかないだろ。
任せてくれと請け合った直後、マリーが不吉なことを言い出す。側近の一人が「帰ったら式を挙げる」だと? そんなの、襲われる予告と同じだ。この国では不吉の象徴とされる「帰ったら」を聞いた以上、義兄上の安全確保は必須だろう。
護衛の追加を手配し、国境までの安全を確保する。これもすべて、マリーの大切な家族だから。
予想外と言えば、あの夜ベッドに押し倒されたときは……言葉を失った。僕の体がもう少し大人だったら、確実に返り討ちにしていたぞ。ああいった行為は危険だと教えるべきか、またはもう一度押し倒してもらうために黙っておくのが正しいか。
マリーのことだから、次も痛い思いをして終わりそうな気もする。ほぼ治った唇を指先で撫でる。歯がぶつかった内側の切り傷は、まだ痛んだ。やっぱり注意しておこう。
部屋に戻れば、マリーが何かに夢中になっていた。侍女とともに編み物を始めたようだ。集中を途切れ差すと可哀想だから、夜になったら話すか。本を広げて読み始める。
「え? なんで!!」
かなり読み進めたところで、ふと聞こえたマリーの声が気になった。顔を向けた先で、三角の何かを編むマリーがあたふたしている。あれは何を編んでいるのか。
「妃殿下、目を落としています」
「目が?!」
会話の途中で、顔を覆って焦っている。その目ではないだろう。というか、風景や手元も見えていたんじゃないのか? 不思議な光景を見守っていると、ラーラという侍女が声をかけた。呆れたような口調だが、口角が上がっている。笑いそうなのを耐えているのか。
「編み目でございます」
顔にある目ではありません、と冷静に突っ込まれたマリーは顔が真っ赤になった。やっぱり可愛いな。総合的に考えて、やっぱり伝えるのはやめよう。この可愛いマリーのまま、また僕の上に乗って要求してほしい。次はしっかり襲い返す。
ぐっと拳を握って覚悟を決めていると、壁際に控える護衛のアーサーが首を横に振った。
「殿下、顔に出ておりますぞ」
「……それは失態だな」
王族らしからぬ本音が出た顔を、ぷいっと逸らした。こんなやり取りも含めて、僕には新鮮だ。いつだって神童扱いされて、友人すら作れなかったのだから。マリーは僕が欲しかったものをすべて与えてくれる、まるで女神の化身みたいな人だった。




