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78.お兄様の帰国に間に合った

 結局、唇の腫れが引くのに三日以上かかった。四日目は見た目は治ったけれど、まだ内側の傷が痛い。料理人にそう伝え、薄味を継続してもらった。ケガをしてからは、ディーお義姉様のお茶会も辞退している。お茶はまだ無理よ。


 ほぼ二人で部屋に閉じこもって、読書をしたり戦盤で対戦したり。今日はお兄様がヴァイセンブルクへ戻られる日だから、表面上だけでも治ってよかったわ。王宮ですれ違う人達に、腫れた顔を披露するのは恥ずかしすぎるもの。


「お兄様、お父様達によろしくお伝えください。私は幸せです、と……それから、お姉様の結婚式には参加しますので」


「ああ、わかった。アル殿、マリーをよろしく頼みます。予想外のことをしでかす子だから、目を離さないであげてください」


「もちろんです。お任せください」


 心配から出たお兄様の言葉を、嬉しそうに肯定するシリル様。クリスお義兄様達に、シリル様の厄介な性癖について聞いていたら、こんなセリフは出てこなかったかも。でも私は束縛されても嬉しいわ。年上の妻だけれど、絶対に浮気されないって思えるから。


 迎えの馬車に乗り込み、去っていくお兄様に手を振る。補佐官のシリングス卿は馬に跨っていた。馬車より馬のほうがいいと願い出たみたい。代わりに騎士の一人が馬車に乗っている。


 帰り道、事故や事件に巻き込まれませんように。願いながら大きく手を振った。そういえばシリングス卿は、帰ったら婚約者と結婚式を挙げるのよ。シリル様にそう話したら「心配になってきた、護衛を追加で増やしておいて」と指示を出した。


 こてりと首を傾げる私に、アーサーとダレルが説明する。このソールズベリー王国では、戦に行く前に結婚式を挙げるらしい。なぜなら「帰ってきたら式を挙げよう」と約束した人のほとんどが、帰ってこなかったから。事例が積み重なって、不吉な表現になった。


「そんな話があったのね」


「だから護衛を増やして、国境まで送る。まあ……大丈夫だと思うけれど、念を入れておくほうが安心できるからね」


「ありがとうございます」


 微笑んでお礼を告げた。このくらいならもう痛くないのよ。熱いお茶とか、しょっぱい料理は無理だけどね。お兄様のことを心配してくれたのが、本当に嬉しい。


 にこにこしながら部屋に戻り、今日は編み物に挑戦した。首に巻く毛糸の帯を作りたいのに、なぜか細くなっていくの。縮んだのかと思って引っ張ったら、ぼろぼろと解けた。


「え? なんで!!」


「妃殿下、目を落としています」


「目が?!」


 慌てて編み棒を放り出し、両手で目を覆う。編み物って怖いのね。まさか目が落ちるなんて……でも見えていたわ?


「編み目でございます」


 ラーラに冷静に指摘され、全部解いてやり直しになった。

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