74.激しいキスで悶絶
寝室で、シリル様の上に馬乗りになる。逃がさないと強い意志を込めて両手で囲ったら、嬉しそうな笑顔が返ってきた。うっ、眩しい。じゃなくて、一般的には怒る場面じゃないかしら?
「顔に出ているよ、マリー。ここは怒る場面ではなく、喜ぶ場面だ」
「どうして?」
「惚れた妻がベッドで、僕の上に跨っている。捲れたスカートから覗く足も綺麗だし……」
にっこり笑うシリル様は、顔の両側に手をついた私の足を撫でた。ぞくっとしちゃう。びっくりした!
「毛を逆立てる猫みたいだね」
可愛いと笑うシリル様の余裕に、ちょっと腹が立つわ。でもはしたない姿なのは事実で、下りようかと思ったら、腰に腕を回して阻止された。
「それで、何を聞きたいの?」
シリル様って、本当は人生三回目くらいなの? いつも私の考えを読むし、大人っぽい所作もそう。年上な私より、ずっと物知りで人の機微を読むの。全然敵わないわ。
「捕まった人達はどうなったのかしら、と思って」
「そうだな、首を刎ねる案も出たんだけど……あちらに口実を与えるのも癪だから、返すことにしたよ」
いま、「帰す」ではなく「返す」を使った。者として扱わず、物と認識しているの? 失礼な気もするけれど、そもそも向こうの振る舞いが無礼すぎた。これでいいのかも。帰れば、シリル様にちょっかいも出せないし、もう国を出られないはずよ。
あれだけの失態をして、友好を結びに来た国に嫌われたんだもの。国王陛下がまともなら、二度と王女を外へ出さない。
「納得した?」
「ええ。二度と会わない人だもの」
シリル様の上からどこうとして、突っ張った腕を緩める。横へ転がろうとした私は、自分の裾を踏んでいたみたい。膝を中心に引っ張られ、がくりと体勢が崩れた。
「え?」
「あっ!」
危ないと思ったタイミングで、シリル様の顔が近づく。転びそうになった私を支えるシリル様と、裾を踏んで躓いた私……唇が触れた。甘いキスではなく、その直後に二人で叫ぶ。
「いたっ」
「うっ!!」
歯ががちん、と言ったわよ? すごい音と痛みに口を押えて転がる。勢いあまって、ベッドから転がり落ちた。その音に、扉の前を守る騎士がノックする。
「ぶ、じだ……もんだい、ない」
返事がなければ踏み込むのが騎士の仕事よ。なんとか返事をしたシリル様だけど、手は口元を押さえていた。それは私も同じで……ある程度痛みが治まった頃、おかしくなって笑う。互いの傷を互いに確認して、歯が折れていないことに安心した。
「数日は痛いと思うよ」
「仕方ないわ。ごめんなさいね、シリル様」
「僕のほうこそ、支え損ねた。ごめんね、マリー」
謝りあって、ベッドで並ぶ。今日は顔が痛いから上を向いた。お休みの挨拶をして目を閉じる。顔の傷って意外と痛いわ。口の中が切れたから、血の味がするし……。痛いのに、思い出すと笑いそう。手を繋いだシリル様も時々肩を震わせるから、同じ気持ちみたいね。




