72.裏切った人の親族が裏切った……?
逃げ出したサルセド王国の王女と四人の件は、すぐに解決した。私が知ったのは数日後だけれど、翌日には捕まっていたらしい。まあ土地勘のない他国で、世間知らずの王侯貴族が逃げられるわけないのよ。そう思っていたら、思わぬ尾ひれがついていた。
「え? 裏切った貴族、がいたの?」
「ああ、二年前に情報漏洩を起こした貴族だけど、嫁ぎ先で生き残った者が数人いてね」
シリル様のご説明では、嫁ぎ先で問題を起こしていない夫人達に関しては罰を免除していた。嫁いだ以上、違う家族になっている。事件に関与していないか調査はされたけれど、嫁ぎ先からの嘆願書も出されて許されたの。
許された中に、当主の妹君がいた。侯爵家の一つに嫁ぎ、侯爵夫人として生き残る。夫や子供達とそのまま平和に生きていけばよかったのに、何を思ったのか。王家に仕返しを考えたらしい。兄は冤罪だと常々口にしていたようで、社交界からも遠ざかっていたようね。
「今回、僕達の寝室の場所を教えて手引きしたのも、侯爵夫人の指示だった。六人の使用人から証言が取れたよ。それに加えて、今回の脱出騒動も絡んでいたというから……救いようがないな」
やれやれと首を横に振るシリル様は、あまり表情を動かさなかった。悲しんでおられるのかも。私はその夫人を直接知らないし、同情するほど近くなかった。だからわからないわ。
冤罪だと信じたから、国の方針に異議を唱えたの? それは当主や一族の者が生きているうちにしなければ、後で何をしても自己満足になる。亡くなった後で騒ぐなんて、何も誰も救われないのに。
「侯爵夫人は、財産や爵位が親族に戻ると思っていたようですから……王家に接収され、軍備の再編成に使われたことに不満があったのでしょう」
アーサーが丁寧な説明を付け加えた。え? そっち?! 家族の冤罪を信じたのではなく、自分に相続財産が入らなかったから? どちらにしろ、嫁いだら実家の財産は相続できないはず。なぜ自分が受け取れると考えたの?
疑問だらけで首を大きく傾げた。耳が肩にくっつきそうなほど傾けたら、笑いながらアーサーが首を支えた。斜め後ろに立つ護衛だから、シリル様より早く手が届くのね。
「王弟妃殿下、首を痛めますぞ」
「ありがとう……私には理解できなくて、つい」
「うん。マリーは理解しなくていいし、アーサーは気軽に触れないでくれ」
さらりと嫉妬めいた言葉が聞こえて、ふふっと笑う。拗ねたシリル様にお菓子を食べさせ、指まで舐められる。これも慣れてきたわ。夫婦って接触が濃厚なのね。にこにこしながら話していたから、夜にお風呂に入るまで忘れていた。
結局、捕まった王女と使節団の人、どうなったの??




