63.暗殺未遂事件になったようです
時間はまだ深夜と呼ぶ時間帯で、王宮内は寝静まっていた。その空気を引き裂くように、騎士や侍女が動き回る。廊下や関係者の部屋に明かりが増やされ、王宮は昼のごとく輝いた。
「マリー、怖かったでしょう。もう大丈夫よ」
駆け付けたディーお義姉様が私を抱き寄せる。用意されたワンピースに着替えた私は、ラーラの淹れたホットワインを飲んでいた。少し蜂蜜を垂らして、スパイスの香りがする赤ワインを味わう。ディーお義姉様が到着したタイミングで、ラーラがカップを受け取った。
お陰でディーお義姉様の抱擁を、素直に受けることができたわ。強く抱くディーお義姉様は甘い香りがする。私も背中に腕を回して、抱きしめ返した。
「シリル様が守ってくださいました」
こんこんとノックの音がして、開いている扉に寄り掛かるお兄様が首を傾げた。
「失礼、入室許可をもらえるかな?」
「お兄様! どうぞ」
私はもうソールズベリーの王弟妃だし、ディーお義姉様もいらっしゃるから? 丁寧に一礼したお兄様は、心配そうな顔で私に話しかけた。
「何かされなかったか? 父上に申し上げて、きっちり抗議してもらおう」
「私は無事です」
シリル様は厳しい顔で、騎士達に指示を出している。漏れ聞こえるのは、犯人捜しだった。この王宮内の構造を知る誰かが手引きしなければ、薄着の王女がこの部屋にたどり着くはずがない。それが貴族なのか、使用人なのか。どちらにしても、誰かが勝手に動いた結果でしょう。
お兄様やディーお義姉様も同じ結論みたいで、この場にいないクリスお義兄様もその判断で動いているらしい。サルセド王国使節団のまとめ役を呼び出し、厳しく問い詰めているんですって。
「これは王弟暗殺未遂だ。しっかり調べろ」
「承知いたしました」
敬礼して出ていく騎士を見送り、私は首を傾げた。夜這いではなくて、襲撃だったの!? 命を狙われるなんて、ソールズベリー王国は強くて有名なのね。もし弱小国なら、そんな卑怯な手を使わずに正面から攻めてくるでしょうし。
「……マリーのそういうところ、好きよ」
口に出したら、ディーお義姉様が苦笑しながら頬を寄せた。お兄様が額を押さえて「教育のどこかに穴があったのか?」とぼやく。私、変なことを言ったの?
「義兄上殿、マリーはこれでいいんです」
シリル様が擁護するような発言をしたので、私は思い切って尋ねた。知らないと気になるわ。
「何かおかしなこと、言ったかしら?」
一斉に答えが返ってくる。
「いいや」
「何も問題ないわ」
「マリーはそのままでいいよ」
えっと、このままでいいのね? ディーお義姉様の次は、お兄様の抱擁を受けた。シリル様もしがみついて離れなくなる。飲みかけのホットワインをラーラに返してもらったら、もう冷めていたわ。




