61.神々の祝福のお裾分け
着飾って集まったのに、もう解散なんて気の毒ね。私達もお揃いにしたのに、と思った。集まった貴族のほとんどが同じように感じ、クリスお義兄様やディーお義姉様も眉を顰めた。でも、皆で夜会を続けたら、音でバレてしまうのでは?
「気づかないわよ。一番遠くの離宮をあてがったもの」
「……そうなのですか」
ディーお姉様の采配らしいわ。でも部屋を決めた時は、まだ無礼な行動はなかったのに。一番遠くにした理由が気になった。
「マリーの兄上で、ヴァイセンブルク王国の王太子殿下が来られるのよ? 合わせて、滞在する友好国の貴族も呼んだわ。歓迎と、あの騒動のお詫びを兼ねていたの」
こくんと頷く。ここまでは理解できたわ。
「そこへ、同じタイミングで、サルセド王国の使節団が来た。優先すべきはどちらか、わかるでしょう?」
ふふっと笑うディーお義姉様に、クリスお義兄様が言葉を足した。
「この夜会は、ヴァイセンブルク王国の歓迎だ。大勢できたから、サルセド王国が目立ったが……あちらの国の大臣はヴァイセンブルクの王太子殿下が来ると聞いたら、予定をすっ飛ばして駆けつけたぐらいだ」
我が国の歴史が古いことも、他国の王族とほとんど縁戚関係にあることも学んでいた。でも国から出ない私は、本当の意味で世界を知らなかったのね。こんなに我が国の評価が高いだなんて。
「人が良すぎて利用された結果が、今のヴァイセンブルク王国だ。これからはもっと発展させるさ」
クリスお義兄様が断言した。発展していくではなく、させる……ソールズベリー王国が後ろ盾になるのね。私とシリル様の結婚が、こんなに多くの意味を持つなんて。
王女として最高の貢献をした。国を富ませ、危険を回避し、そのうえ大切にされて、こんなに幸せよ。すべてが上手くいきすぎて怖いくらい。
「恵まれすぎて、怖いくらいです」
シリル様にそう伝えたら、肩を竦めてこう言われた。
「だってさ、僕達の結婚式を思い出してみてよ。二柱の神々が祝福をくれた。あんなの前代未聞だからね」
「ええ、愛と豊穣の女神アルティナ様と……金の光が全能神ゼウシス様だったわ」
祝福は通常、一柱の神様が多い。二柱は珍しいうえ、全能神様の祝福なんて聞いたことがなかった。
「それだけ、神々は君達の幸せを望んでくれた。国や周辺へのお裾分けもつけて。ありがたい事だ」
お兄様が話に加わり、そこからは楽しい夜会を過ごした。挨拶に来る貴族も礼儀正しく、優しい。覚えた貴族名鑑が役に立って、顔と名前が一致するようになったわ。お名前を口にした時の笑顔に、私も嬉しくなった。
夜が更ける前に、私とシリル様は離宮へ戻る。夜更かしは成長の大敵だもの。シリル様が戻るなら、私もご一緒する。いつも通り入浴して、寝室で横になった。手を繋いで挨拶をして……目を閉じたはずだったのに。




