06.驚くほど立派なお部屋だわ
離宮のお部屋は、すでに滞在準備が整っていた。王宮の侍女達は有能なのね。感心しながらお部屋を見て回る。入り口の正面に応接セット、扉はないけれど隣室にベッドがあった。寝室なのだけれど、ここはもう一つ扉がある。
おそらく、夫になったシリル様のお部屋に繋がっているわ。お父様達のお部屋もそうだったもの。ただ、ヴァイセンブルクの王宮では、寝室の扉があったのよね。首を傾げたものの、慣習の違いでしょうと理解した。
寝室には大きなベッドがあり……なぜ部屋の中央なのかしら。一辺くらい壁に接しているわよね? ど真ん中に置かれ、壁から離れている。よくわからないけれど、別に不自由はないからいいわ。頭の方角は壁に付いていたら、部屋が広く感じられるでしょうね。
自室へ戻れば、左側の手前にアーチ状にくり抜かれた壁がある。中には小さめの部屋があった。窓がなく、壁に向かって机が備え付けられている。正面が棚になっているから、作業用? ラーラも後ろで首を傾げた。
「初めて見る造りでございますね」
「ええ、本を読むなら静かでいいかも」
「書斎はあちらにございましたし、暗いところで本を読むのは疲れます」
違う目的の部屋かもしれない。後でシリル様に聞いてみよう。自室へ戻って隣の扉を開ければ、トイレやお風呂があった。書斎はどこかしら。尋ねたら、ラーラが一つの扉を示した。
「こちらでした」
「あら、広いのね」
壁一面に本が並ぶ部屋は、窓からの光が差し込んで明るい。扉の先は少し通路になっていて、隠し部屋みたいに感じられた。この通路の幅が、お風呂やトイレの奥行きと同じみたい。歩数で数えて、頭の中に見取り図を描いた。
「クローゼットは?」
「こちらのようです」
書斎の奥、本棚の影にやや細長い扉がある。案内されて入れば、広いクローゼットがあった。書斎と同じくらいある。お母様のクローゼットでも、こんなに広くないわ。ぽかんと口を開けて見まわし、慌てて手で隠した。はしたない。
「すごく広いのね」
「ドレスをトルソーで飾るようですね」
大量のトルソーがあるので、ドレスの形が崩れないよう飾っておくみたい。ヴァイセンベルクは潰して吊るしていたから、その違いで広いのね。振り返れば、書斎側の壁に小さな引き出しがびっしりと並んでいた。
本棚と背合わせで、お飾りを入れる棚がある。髪飾りやベルト、ショールなども細かく分けて収納できるので、効率的だわ。ここなら持ってきたドレスや宝飾品がすべて入るし、なんなら棚が余る。
「立派ね」
「褒めてくれてありがとう。マリー、兄上達がお呼びだから準備をしてもらえる?」
「は、はい!」
寝室を抜けて、私達を探してくれたのだろう。細い通路の扉に寄りかかるシリル様に気づかなった。声をかけられて慌てたので、勢いよく振り返っちゃったわ。くすっと笑い、シリル様は「あとで迎えに来ます」と伝えて踵を返す。お礼を口にしてから、荷解きを……あの細い通路から?
「姫様、荷物を運びますので先に湯浴みをなさってください」
専属侍女として連れてきたのは、ラーラだけ。きょとんとしている私を、王宮の侍女達が促す。あれよあれよと、お風呂に連れて行かれたが……服の下の包帯に気付き、彼女達は困惑した顔になった。
「拭くだけでいいわ。まだ包帯を解けないし」
神殿でもそうだったの。付け加えた情報に、侍女達は顔を赤らめてお湯とタオルで身を清めてくれた。
そこで気づく。もしかして、私とシリル様が閨事をしたと勘違いしている? 包帯の下に赤い印があると思われて? 言い訳しようとするも、なんと切り出せばいいのか。自分から違うんです、と言ったらおかしいし。どうしようか迷っている間に、香油も塗り終えてしまった。
べ、別に言い訳しなくても……いいわよね? 国王陛下や王妃殿下にご理解いたければいいもの。開き直って、ラーラの選んだドレスに袖を通した。