58.謝罪は受け入れません
泣いて暴れる王女を、使節団の数人が取り囲んで運び出す。連れ出すと表現するより、担いで運んだ感じだった。泣き声が遠ざかっていく。とんでもない王女様だったわね。
「王弟妃殿下には、ご無礼のお詫びとして宝飾品を献上させていただきます」
「要りません」
反射的に断っていた。謝罪を受け入れるなら、お詫びの品を受け取るべきよ。でも、この事例ではダメ。誰かが代わりに詫びたら許される、とカルロータ王女が覚えてしまう。
実際、そうしてきたからの現状でしょう。お詫びをするなら、本人からが原則よ。その上で、許すかどうか決めるのは私の判断です。躾の出来ていない王族を外に出すなら、サルセド王国は相応の対価を示す必要があった。
たとえば、他国を黙らせるだけの武力だったり、圧倒的な経済力だったり。そういったものがないなら、恥になる王族はしまっておくべきだった。
「え……あ、その……」
「不要ですわ。あなたからの謝罪を受け入れる気は、私にはありません」
「僕の方からも断ろう。兄上、構いませんね?」
この場で「陛下」と呼ばなかった。シリル様って政もこなせそう。外交能力も高そうだわ。
陛下と呼んだら、王弟でも臣下になる。でも弟として兄に呼びかけたら、個人的な感情を優先させると宣言した形になった。すごいわ、王宮の教師が教えてくれた内容を体験できるなんて。
「ああ、今回は無礼を通り越して非礼だった。私からも断る」
クリスお義兄様が言い切ったことで、使節団の人は青ざめた。白くなるほど握った拳が、ふるふると震える。自国の王へなんと説明するか、困ってしまうわよね。
「重ねて、我がヴァイセンブルク王国からも、正式な抗議をさせてもらおうかな。妹は我が国の誇りなのだが、あのように貶されるとは……王弟妃殿下は、我が妹で元ヴァイセンブルク王女だ」
ヴァイセンブルクは歴史が古い。金や武力はないけれど、ヴァイセンブルクの血を引かぬ王族はいないと言われるほど、他国との繋がりは深かった。数世代遡れば、必ずヴァイセンブルクの血が混じっている。
その歴史の古さで、生き残ってきたんだもの。数カ国で揉めれば、仲裁や調停で呼ばれる名誉な一族だった。その国の王太子が正式に抗議する事態……カルロータ王女は逃げ場がないわ。
若いからと許されるのは、十二歳まで。私はそう教わった。だから十五歳前後の王女は、成人と同じ。夜会の場が白けてしまった。クリスお義兄様の宣言で、夜会は中断となる。せっかく着飾って集まった貴族達に、申し訳ないわ。
 




