55.サルセド王国使節団の王女様
サルセド王国の使節団に王族がいる。事前に聞いていたけれど、どなたが同行したかは不明だった。クリスお義兄様やディーお義姉様に続き、シリル様と王族席に座る。見下ろす状態になって、ゆっくりと観察した。
大人の男性ばかりの中に、女性が二人だけ。一人は文官らしき制服で、もう一人はドレスだった。あのドレスの女性が王女様かもしれない。
「サルセド王国使節団代表からご挨拶を」
「サルセド王が末娘、第三王女カルロータにございます」
年配の男性が口火を切り、ドレス姿の王女様が一礼する。柔らかな茶色の髪は波打って、大人っぽく見せているけれど十五歳前後かも。彼女が代表として前にでて、使節団を実際に纏めるのがあの男性みたい。一般的な使節団の形と同じなので、なるほどと思いながら頷いた。
顔を上げたカルロータ王女は、目を見開いた。じっとこちらを見つめた後、嬉しそうに微笑む。シリル様と顔見知り、とか? そう思って隣を窺うと、何も感じていない様子だった。知り合いではないのね。
単に笑顔で好印象を与えたかっただけかも。深く考えずに私も微笑み返した。なぜかキツイ目を向けられ、どきっとする。
「マリー」
「はい」
呼ばれて振り返れば、シリル様が私の腕を掴んで引いた。素直に顔を近づける。
「うん、わかった。大丈夫だよ」
「はぁ……」
何のお話かしら? 首を傾げる私は、視線を段下へ向けた。使節団はその後の挨拶も終わり、全員が数歩下がる。これで顔合わせは終了ね。夜会が始まるから、数組の夫婦が前に出た。ソールズベリー王国では、他国から来賓をお迎えすると、高位貴族の夫婦がこうして踊って歓迎するの。
今回、友好国であるヴァイセンブルク王国の他に、もう一つの国が参加していた。貿易関連の会議をすると聞いている。お兄様は会議に参加する目的で訪れ、本音はシリル様や私に会いたかったと明かした。ダンスの始まった広間で、段下を確認する。お兄様はどこかしら?
「マリー、左側の手前だ」
「あ、本当に! ありがとうございます」
誰かと雑談をするお兄様は、後ろ姿だった。見つからないと思ったわ。シリル様がディーお義姉様へ、広間に降りると伝えた。お兄様のところへ行くのね。腕を組んで立ち上がり、ダンスが終わるタイミングに合わせて階段を降りた。
左側へ向かう私達の行手を、使節団のカルロータ王女が遮った。来賓なので無視はできない。ご挨拶に来てくれたのかも。王族が席を降りたんですもの、近くで言葉を交わしたいと思うのもわかる。
「王弟アリスター殿下でいらっしゃいますね? カルロータ・リラ・サルセドにございます」
きょとんとした。私のことは眼中にないみたい。どうしましょう、こちらから挨拶したほうがいいの?




