53.穏やかなお茶会でまったり
「マリーが幸せそうでよかった。ありがとうございます、アル殿」
お兄様が笑って、シリル様にお礼を告げた。安心したシリル様の態度が柔らかくなり、同席したシリングス卿も笑顔になる。やはり隣国とは仲良くしておきたいもの。いろいろ心配だったと思うわ。
新しい公爵邸が完成したばかりで、これから移り住む話もした。王弟というシリル様の立場から、公爵を賜ることはお兄様達も納得する。王宮に近い位置だから、ディーお義姉様達とのお茶会も簡単。すごく立地がいい。そう締め括ったら、笑顔で頷いてくれた。
シリル様はテーブルの下で、ずっと私の手を握っている。不安なら仕方ないと、私もしっかり握り返した。お兄様達が予定より早く到着したのは、国境の通過時間が短縮されたから。クリスお義兄様が手配していたみたい。
王族なのだし、最低限のチェックで通していいよ、とお墨付きを与えたのね。お陰でお茶会の時間もゆっくり取れて、準備も余裕がありそう。
お茶のお代わりを注ぐラーラに、王宮侍女が耳打ちした。はっとした顔で私を見て、シリル様へ目配せする。小さく頷いたシリル様が切り出した。
「夫人の支度には時間がかかる。先にマリーだけ準備に入らせてほしいのだが」
祖国よりソールズベリー王国のほうが、支度に時間をかける。夜会があれば、午前中から肌を磨き始めた。お昼に軽食を摘まんで、午後からサイズ合わせや宝飾品選び。忙しいのは私より侍女達なのだけれど。
「ああ、そうだったね。気づかなくてすまない。教えてくれて助かりました、アル殿。マリーもあとでね」
お兄様はシリングス卿と連れ立って、客間へ戻っていく。見送ったら、すぐにお風呂へ直行よ。肌を磨くのは短縮バージョンでお願いして、用意したドレスに合わせて化粧も考えなくちゃ。大人っぽく仕上げるほうが、いいかしら?
香油を塗って仕上げた肌に、保湿液が染みていく。丁寧に作り上げるから、ご令嬢やご夫人は綺麗なの。私も魔法にかかったように、美しく変身できた。
鏡に映るのは、やや濃い化粧を施した大人っぽい淑女よ。深緑のドレスは肌にぴたりと吸い付き、不要な皺や弛みはない。粉を叩いた上に色をのせ、目元は濃緑から黄色へグラデーションで輝く。唇は濃いめの紅を引いて、ややマットに仕上げた。
鏡の前でくるりと周り、最後に二人の色を合わせた紫のコサージュを飾った。完璧よね? と微笑んで問えば、ラーラも王宮侍女も大きく頷いて同意した。
「素敵です」
「ありがとう、いってくるわ」
廊下で待つシリル様に、早く会いたい。きっと褒めてくれるわ。




