51.使節団訪問に合わせてドレス新調
ソールズベリー王国は、祖国ヴァイセンブルク王国に比べたら歴史が浅い。外交では新興国扱いらしいわ。そういった面で、我が国は苦労したことがないから、気の毒だなと感じた。
歴史は古いが発展していないヴァイセンブルク王国が、周辺国にどう見られているか。全く理解していなかったの。
ヴァイセンブルク王国は、ソールズベリー王国から見て南側に位置する。重なる国境は、ソールズベリー王国の三割にも渡った。残りを三つの国が二割前後で分け合う形で、残り一割は凍てつく大地に繋がる。その先は人の住む国はないと教わった。
国境を接する国々の一つ、サルセド王国から使節団が到着する。王族も同行しているため、歓迎の夜会が開かれると聞いた。ディーお義姉様はやたら気合いが入っていて、新しいドレスを作ると息巻く。でも、一度も袖を通していないドレスがあるのに。
もったいない思いを呑み込み、シリル様とお揃いのドレスを誂えた。夜会で着るドレスに、ほんの少し互いの色を混ぜる。この方法は、自分に似合う色を優先するソールズベリー王国で流行した。
胸ポケットに飾る薔薇の色だったり、手袋の刺繍の色だったり。ほんの少しだけ混ぜて、見つけたら褒めるのがマナーらしい。知らないマナーが増えていて、私も驚きだわ。その流行に乗っかり、二人で色を交換し合った。
私のドレスは深い緑、赤毛や琥珀の瞳と相性がいい。黒髪に青い瞳のシリル様とは、同化してしまう。だから彼はやや明るい色を選んだ。ピンクのシャツに紺色の上下よ。互いに胸元へ紫色の小物を使う。私はコサージュで、シリル様はハンカチ。
宝飾品はシリル様が贈ってくれた琥珀を使った。透明度が高くて、金色に近い輝きなの。とても気に入っている。シリル様は金細工だけで、宝石はなし。ここで二人が夫婦だと示す指輪が登場する。大粒ダイアモンドをがっちりと爪で固定した、立派すぎる指輪だった。
「これで、君が僕の妻だと自慢できるだろう?」
「そんな理由づけがなくても妻です」
微笑んで返せば、抱きつかれた。まだ胸に頭が埋まる程度。成長したら、こうして抱きついてくれなくなるのよね……きっと。お母様が「昔はあの子も抱きついてくれたのに」とお兄様のことを嘆いていたもの。
今回は友好国ということで、お兄様も参加する。到着したら、顔合わせの時間を作りたいわ。結婚式にお父様が参加したから、お兄様とシリル様は話していなかった。仲良くなってほしいわ。
「ドレスの準備もできたし、あとは使節団の到着待ちね」
一式を衣装部屋に片付けたところへ、お兄様到着の連絡が入った。予定より半日早い。急がなくちゃ!




