05.首の包帯が見えちゃったかも
首元の包帯が気になるので、きっちり隠せる襟の高いドレスを選んだ。ガラスを割って切り傷なんて、子供みたいで恥ずかしいんだもの。
神殿は質素倹約の建前を使い、やや物足りない朝食を用意した。パンに野菜や肉を挟んだ軽食よ。ソースがとにかく美味しくて、ラーラがこっそり材料を聞きに行った。また作ってもらえると嬉しいわ。
大神官様達にご挨拶をして、お式の翌日には帰宅するのがルールだ。神々の御許で結ばれるのは、幸せなことよ。ただ、この儀式にはお金がかかる。寄付金という形で、ある程度の金額を納めるの。そのため神殿奥の部屋を使えるのは、王侯貴族や裕福な商人くらいだった。
平民は少し離れた場所に立つ、神官達の宿舎の一角を使用する。こちらは寄付金がリーズナブルで、穀物などの物納も受け付けるらしい。そちらにも泊まった新婚夫婦がいたようで、おめでとうの声が飛んできた。
『ああ、ありがとう』
さすがに慣れておられるのか、シリル様は笑顔で応じている。自国の民に対してはソベリ語なのね。では私も!
『あんが……っ』
あんがとなぁ、の途中で口を塞がれた。シリル様の手、温かいのね。
「僕との約束を破るの? 他の人に聞かせたらダメと言ったよね」
そうだった! はっとして何度も頷く。満足そうにシリル様が手を離してくれた。私は苦しくなかったけれど、押さえる手が震えていたのよね。いま確認した感じでは、目一杯背伸びしていた? やだ、可愛い。
「助けてくれて、ありがとうございます。シリル様」
「い、いや……」
白い肌がぽっと赤くなる。シリル様の肌は私より白いかも。すぐ赤くなるから、日焼け注意ね。姉は肌が白くて、よく真っ赤になっていた。思い出しながら、シリル様と手を繋いだ。
「あなた方も、おめでとう。幸せになってくださいね」
微笑んで、ヴァイス語で挨拶する。顔を見合わせて一礼する様子から、話せないけれど聞き取れるのだと判断した。頭を上げた彼らの視線が、首筋に向かう。包帯、見えちゃってるのかしら。気になるが、人前で直すのもおかしいし。
ここは笑顔で切り抜けよう。いくつかの新婚夫婦に、母国語で話しかけながら通り抜けた。迎えにきた馬車に乗り込み、首元に触れる。包帯は……出てないわね。動いた時に、ちらちらしちゃったかも。
「しばらく離宮暮らしになる。公爵の地位を賜ることが決まっていて、新居は建設中なんだ」
「そうなのですね。ではシリル様の兄君、国王陛下にご挨拶して入宮させていただきます」
各国の結婚の儀式は、すべて神殿が司る。おかげで他国との婚姻でも、基本的な作法が同じなのは助かるわ。翌日には神殿を出るしきたりだから、私の荷物は二日遅れで送ってもらった。
明日には届くわね。数日分の衣服や装飾品は、目一杯詰め込んで馬車に乗せてきたの。そのせいで少し狭かった。ラーラと笑いながら身を寄せ合って到着したのよ。そんな雑談を口にして、シリル様に聞かせた。
「ならば、挨拶が終わったらゆっくり休んでほしい。もちろん、侍女のラーラ殿も一緒に」
ラーラに敬称をつけたシリル様に対し、必要ないと説明する。貴族令嬢ではなく使用人として同行したんだもの。でも気持ちは嬉しかった。大切なねえやを尊重してもらえた気がする。
「私、シリル様と結婚できて良かったですわ」
政略結婚だけれど、それでも。こうして素敵な人と巡り会えた。年下だから、いずれは可愛い同年代の女性と結ばれるだろうけれど。それまで一緒に暮らすなら、居心地良い人がいいもの。
「っ、僕もだ」
あらあら、顔が真っ赤です。つついてみたいけれど、我慢しましょう。