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46.拗ねて笑って、行儀悪く食べる

 髪飾りが気になる。歩いている間も、ちょくちょく手を伸ばしてしまい……シリル様に笑われてしまった。


「もうっ! 笑うことないじゃないですか」


「だって、まるで子供みたいで可愛いから」


 可愛いとか言われても誤魔化されませんからね。怒った素振りを見せても、シリル様は笑顔だった。


「君と街歩きができて、本当に幸せなんだ」


 言葉に出したシリル様は、少しだけ俯いた。ディーお義姉様達から聞いたのは、シリル様の執着のお話。気に入った友人を閉じ込めたのよね。大好きで一緒にいたくて、相手もそう思ってくれると信じていたなら。


 傷ついたんじゃないかしら。自分の考えや行動が、世間では認められないと知って、すごく悲しんだと思うの。シリル様は人の気持ちがわからない人じゃないわ。とても優しい。ただ、好きになったものを手放せないと願い、それが叶う権力を持っていただけ。


 もし平民なら、こんな騒動にならなかった。叱られて我慢して終わったはずよ。


「シリル様、これ、本当にありがとうございます。とても気に入りました」


「そう? よかった」


 大人びた口調で、表情を取り繕う。だから気づかなかったフリで、手を繋ぎ直した。やや大袈裟に手を振りながら歩き、興味のあるお店に立ち寄る。その度に何か買おうとするシリル様を抑え、アーサーやダレルとも雑談を交わした。ラーラは私が気に入ったものを書き記して、後で注文するつもりかしら。


「この辺りで折り返そう。帰る時間が遅くなるからね」


 シリル様にそう言われたら、断る理由もない。この先はお店も少ない住宅地になるみたい。一緒に反対側の店を見ながら歩いた。こちら側は飲食店が多いのかも。甘辛いタレの匂いがして、思い切り吸い込む。


「美味しそう」


「こういうのは、歩きながら食べるんだよ。平気?」


 街歩きのコツを話すシリル様に頷いたら、ダレルが買ってきてくれた。串焼きなのね。全員分あるから、ラーラも一緒に頂く。刺さっているのは、肉か魚か。楽しみにしながら齧ったら、予想外の食感だった。


 ぐにゃっとする。噛むと味はするけれど、いつまでも弾力があって……最後は飲み込んだ。


「何かしら、これ」


「あの絵はご存じですかな?」


 アーサーが示したのは、串焼きを売っている店の看板だった。脚のいっぱい生えた球体のような絵ね。初めて見たわ。


「知らないわ」


「タコという生き物です。海に棲んでおり、焼いたり茹でたりして食べますが……確か王宮でも出たことがありますぞ」


「あれは、マリネだったか」


 アーサーとダレルの説明に、マリネを思い浮かべる。残念ながら、私に出されたマリネにこれはいなかったわ。覚えているのはオレンジの身の魚だったもの。


「今度、出すように頼んでおこうか?」


「本当ですか? 楽しみだわ」


 話しながら歩いていたら、パン屋さんを通り過ぎるところだったわ。

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