44.まだ街を見て歩いても?
何の犯罪で手配していたのか、結局、誰も教えてくれなかった。でもいいの、聞かないほうがいいことってあるわ。やっぱり女性を襲う不埒な輩だったのだと、納得する。そんなの、紳士な三人が言えるわけない。
「私も同じように思います」
ラーラも同意したので、この話は終わり。答えづらい質問をして悪かったわ。衛兵を呼び、男達を引き渡した。アーサーとダレルが対応しているから、少し離れた場所でシリル様と待つ。
「もう帰りますか?」
捜索中の犯人を捕まえたなら、視察は不要になったのよね。そう思った私の発言に、シリル様は首を大きく横に振った。
「いや、一緒に街を見て回ろう。ソールズベリー王国の良いところを見てもらいたい」
「まあ、ご案内いただけるのですね。ほっとしました」
せっかく準備してでてきたのに、もう帰るのはもったいない。私の母国になるのだから、街の様子も知っておきたいわ。
しっかり手を繋いでもらい、後ろにラーラが控える。さらにアーサーやダレルが続いて、完璧な布陣だった。これがお忍びでなければ、護衛の一人は前に立つのよ。並んで歩けば、すぐに目移りする。
あのパン屋さん、いい匂い。こっちのお店は文房具の専門店かしら。綺麗な色のインクが欲しいわ。あ! これは食堂なの? 長い行列ができているなんて。
驚きで足が止まると、シリル様も付き合ってくれる。はっとしてまた歩き、気になると止まった。その繰り返しに、シリル様が笑い出す。
「両側を見るから忙しいんだよ。左手側を見ながら歩いて、帰りは反対方向から歩いてくれば両方見れるよ」
「まあ、本当に! そうしましょう」
素敵な提案だった。これなら両側のお店がくまなく見られる。大通りだけでも楽しかった。人が大勢いて、お店もたくさんあって、とても賑やかね。小さな子供が走っていく姿を見送り、治安も悪くないと感じた。
女性を襲う不埒な犯人も、すぐに捕まっていたし。迷子で私がおろおろしていたから、目をつけられたのでしょう。
「この店は僕のお勧めだ。綺麗な髪飾りを売っていてね……義姉上にあげたことがある」
綺麗な髪飾りを誰に贈ったのかしら、邪推する前に教えてくれた。ヤキモチを妬く時間もなかったわ。どうすると問うシリル様に、微笑んで返した。
「ありがとうございます。お勧めならぜひ」
「よかった。綺麗な髪を飾るに相応しい髪飾りを見つけよう」
そういえば、髪色を隠していなかった。この国は赤毛は少ないと思っていたけれど、あまり注目されていないみたい。安心してお買い物ができる。からんと心地よい音のベルを鳴らして、店内に踏み込んだ。




