43.話し相手じゃなくて護衛だった
投げ飛ばされ、叩きのめされ……貴族と思われる男四人が転がる。こてんぱんというのかしら? 服が破れたりしていないのに、ボロボロの状態だった。
辺境伯って、すごく強いのね。護衛と言っても話し相手だと思っていた。認識を改めましょう。下手な騎士様より強いわ。
ほっとして崩れるように座り込む。申し訳なさそうに眉尻を下げたシリル様を、ぎゅっと抱き寄せた。崩れるように私の膝に座るシリル様に、ケガはなさそう。ぺたぺたと両手で確認して「よかった」と呟いた。
アーサーは手際良く男達の手足を縛り上げ、押さえる役はダレルが担っていた。二人にも笑顔でお礼を告げる。腰と足に力が入らないから、しばらくこのまま座ることになりそう。これが腰が抜ける、なのかも。
「ごめんね、マリー。君を囮にしてしまった」
「違うわ、迷子になった私を見つけてくれたのよ」
シリル様の様子と、今の謝罪で状況が掴めた。何らかの理由があって、シリル様はこの男達を捕まえる必要があったのね。視察もそのためかもしれないわ。私を囮にするというより、本当に逸れてしまったんだもの。きっと焦ったでしょう。
「心配かけてごめんなさい。次は手を繋ぎましょうね」
一般的には私が言うと、迷子になるのは年下のシリル様に思える。でも逆よ。世間知らずの私を、シリル様が守ってくれるの。安心して着いていけるわ。
「怒ってないのか?」
「怒る理由があるかしら?」
問われて、問い返すのは失礼かも。そう思ったけれど、シリル様はぼふっと抱きついてきた。顔を見られないよう埋めるから、背中をぽんぽんと叩く。こういうの、憧れていたのよね。私は末っ子だから、お兄様にやってもらった経験はあるの。お姉様も優しく抱きしめてくれた。
私が慰める立場になることはなくて、一度でいいから体験してみたかった。シリル様と一緒なら、描いた夢が叶っていく。嬉しくて気恥ずかしくて、でもやっぱり幸せなのよ。
「お嬢様……おケガはありませんか? 切り傷が!」
悲鳴をあげるラーラに、私は自分の手足を確認した。どこか傷があるかしら。まったく痛くないけれど。そう思ったら、膝を擦りむいていた。全部終わってから座った時でしょうね。
お借りした服を汚していないか確認して、無事だったと頬を緩める。
「ところで……何の罪でこの方々を追っていたんですか?」
何か罪人なんですよね? 尋ねる私に、シリル様はそっと視線を逸らした。辺境伯のお二人も、気まずそうに俯く。もしかして……本当に、女性の貞操を狙う不埒な輩だった、とか?! 急に怖くなってきたわ。




