41.視察で街歩きできると聞いて
シリル様の行う公務はまだ少ない。年齢から考えたら当然だけれど、今回は視察を兼ねて買い物に出ると聞いた。お見送りかと思ったら、一緒に行こうと誘われる。
「本当によろしいのですか?」
「もちろん、君が嫌でなければ」
「嬉しいです」
ヴァイセンブルク王国にいた頃は、お祭りの時期だけお忍びで街に降りた。侍女のラーラやお姉様と一緒に、護衛を連れて。このソールズベリー王国に嫁ぐと決まって、窮屈な生活を覚悟した。賠償として嫁ぐのだから、塔に幽閉されても文句を言わない。そう思っていたのに。
お祭りで賑わう街も素敵だけれど、まだ知らぬ街をシリル様とお忍びデートできるなんて。すごく嬉しいわ。着ていく服は、王宮の侍女が用意してくれる手筈だった。実はクリスお義兄様やディーお義姉様も、お忍びで街に行くらしい。
街が安全な証拠だわ。それって、クリスお義兄様の治世が安定しているからよ。すごく有能だと噂になっていたし、街歩きが楽しみだわ。
護衛についたばかりの二人も、一緒に出かけるの。アーサーとダレル、お忍びよと伝えたら「慣れております」と返ってきた。辺境伯領では、ほぼ毎日のように街歩きをしていたとか。羨ましいわ。
きょろきょろしすぎると目立つ。そんなアドバイスをもらった。堂々としていたらいいみたい。行き先もシリル様にお任せして、ゆったり構える……できると思う。
「ご覧ください、お嬢様。こんな感じです」
街娘がよく身に付ける、一般的な服装なの? 裾は短くて膝下、袖は半袖ぐらいだった。襟元はきっちり閉まっていて、腰のリボンは大きく結ぶスタイルね。ワンピースかと思ったら、ブラウスを着て上から胸当てのついたスカートを被る感じ。だから、腰のリボンを結ぶのね。
オーダーメイドで作る王侯貴族の服と違い、平民は大きめの服を購入してリボンやベルトで絞って着用する。脱げなければいい。一緒に衣装を確認したアーサーは「これなら問題ありませんな」と頷いた。刺繍やレースもほとんどない。
「可愛く仕上げるのは、私達の腕の仕事です」
ラーラは気合いが入ったみたい。髪を編んで可愛くみせると意気込み、服を運んできた王宮侍女も「これなどいかがでしょう」とリボンを勧めた。
「任せるわ、素敵に仕上げてね」
私に言えるのはこれだけ。シリル様のお召し物も楽しみだわ。服にいっぱいポケットが付いていたりするのかしら。平民はバッグを持たず、すべてポケットに入れると聞いた。そういった違いを知るのも、視察の大切な一環よ。
ところで……スカートの中に履く、ぶかぶかのズボン? これ、女性にも必要なのかしら。
 




