40.侯爵家残党の処分 ***SIDEシリル
辺境伯の二人が、護衛を申し出てくれて助かった。マリーとも打ち解けて、孫娘と祖父のような関係に見える。地位を後継に譲ってまで、マリーを優先したことは感謝に尽きる。
兄上や義姉上以外と話していないが、アッシャー侯爵家の分家が騒いでいた。本家の失態をこれ幸いと、自分達にお鉢が回ってくると勘違いした連中だ。隣国であるヴァイセンブルク王国に責任を押し付け、外交を混乱させた責任を何だと思っているのか。
一歩間違えば、国同士の体面を守る戦争になった危険すらある。それを理解せず、本家であるアッシャー侯爵家を取り潰されたと騒ぐ連中を、兄上はまとめて処断した。公爵家すべての賛同が得られたほど、どちらに非があるか一目瞭然だった。
だが、こういった騒動を起こす連中は、おしなべて自分勝手だ。己の非を認めず、他責とすることに慣れていた。アッシャー侯爵家が処分されたのは当然だし、分家は残してやったのに。自分達で己の首を絞めたんだから、納得の上だろう。
アッシャーの一族は、すべて平民に落とされた。貴族として名を残すのは、嫁いだ元令嬢の貴族夫人が数人だけだ。さすがに離婚されると問題になるため、嫁ぎ先には義姉上から通達が出された。そのため、それ以上の騒動になっていない。
中途半端に温情で財産の持ち出しを許したためか、その金を使ってマリー襲撃の計画を立てた。僕達が何もせず、ただ彼らを自由にするわけがないだろう。王家に恨みを抱いている可能性が高い連中に、監視をつけるのは至極普通の行動だ。
彼らを捕縛するのは可能だが、手下として雇った実行部隊が把握できない。頭が捕まったと知らず、末端が暴走したら? 護衛は絶対に必要だった。それも腕ききで強く、絶対に裏切らない騎士だ。その条件に当て嵌まるアーサーとダレルを確保できたのは、マリーの人柄だろう。
綺麗で可愛いだけではなく、中身も魅力的で素敵な人だ。絶対に傷つけさせないし、僕の手元から逃さない。微笑む彼女を見守りながら、改めて決意した。新たに建設中のマリーの私室、窓にはお洒落な薔薇を形どった鉄格子をつけよう、と。
「シリル様、どうぞ」
お茶菓子を半分に割り、綺麗な細い指で摘まんで差し出される。ありがたく頂き、しっかり指も味わった。照れるマリーが妻なのが奇跡のようだな。
護衛の二人には話してあるが、数日中に街へ買い物に出かける予定だ。囮作戦ではなく、単にマリーと王都の散策を楽しむため。ついでに連中を一網打尽に出来たら、最高だけど。
二人にもお菓子を渡すマリーは、背を向けていて知らない。僕と彼らが目配せし合い、決意を固めたことを。何があっても、君は傷つけさせないからね。




