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04.君のソベリ語は僕が独占したい

 翌朝目覚めて、腕の中で身じろぐ温もりが心地よい。胸元に真っ赤な顔が埋まっていた。なんてこと! 窒息しかけたのかもしれない。


『申し訳ねぇ! おらぁっ、そんだらづもりじゃ』


「いや、大丈夫。落ち着いて」


 年下にぽんぽんと背中を叩かれてしまった。年上の余裕とか、全くなくてお恥ずかしい。ベッドヘッドのクッションに寄りかかり、並んで座った。頭の位置が明らかに低い。年齢による身長差ね。私の座高が高いわけじゃないと信じているわ。


『えっどぉ、おはよ、ごぜぇます』


「おはよう、マリー。その……言いづらいんだけど」


 王弟殿下アリスター様、いえ……夫のシリル様が切り出したのは、思わぬ発言だった。


「しばらくは母国語で話してもらえないか? 僕や両親も話せるし、慣れているだろう。だから……」


『お、おらのぉ、ソベリ語……へっだぐそだがらか?』


「っ、違うよ。とても素敵で愛らしいんだけれど、その……僕だけが聞きたいんだ。そう、僕の我が儘だ! マリーがここの生活に慣れたら、また僕に聞かせてほしい」


 言われた内容を纏めると、つまり……私は大陸の標準語である母国のヴァイス語で話してほしい。この国はほとんどの人がヴァイス語を話せることと、私のソベリ語を独占したい旦那様の意向が理由。


 嬉しいかも。頬が緩んでしまう。やっぱり自由に言葉を操れる母国語は楽だし、独占したいなんて言われたら喜んでしまう。年下で弟みたいな年齢だけど、顔立ちも整っている異性の褒め言葉に頬が赤くなった。


「っ、わかりました」


 ヴァイス語に戻すと、シリル様は微笑んでくれた。そういえば、結婚式も大陸標準語を使った。ご家族には事前に挨拶だけしたけれど、ヴァイス語で普通に会話したもの。


 結婚してすぐはヴァイス語で生活し、慣れたらソベリ語……いえ、旦那様であるシリル様の前では使ってもいいのね。条件を確認し、微笑み合う。そこへ遠慮がちなノックの音が聞こえた。


「お目覚めでしょうか」


 ラーラではない女性の声だ。このソールズベリー王国の人かしら。シリル様に視線を向ければ、彼が入室の許可を出した。


「起きている、入れ」


 王弟という地位に相応しい、とても立派な指示ですね。入室した女性は、神官服だった。女性神官なのね。視線をやや伏せて準備が整ったことを知らせた。食事、入浴、着替え……どれも選べる状態らしい。


「入浴後に食事をする。着替えは……マリーには侍女がいたよね?」


 途中から口調が柔らかくなり、こてりと首を傾げるシリル様が可愛い。はいと返事をして、入浴後にラーラを呼んでもらう手配をした。


 ベッドから降りた私は、そこでうっかりとシーツの端を踏んだ。転びそうになり、慌てて掴んだのはサイドテーブルのクロス。上に載っていたグラスが割れた。


「きゃっ」


 驚いた私を、後ろからシリル様の腕が引き戻す。爪先に掠めたのか、小さな傷ができた。滲んだ血を、シリル様がシーツで包む。


「すまないが、治療道具を借りたい」


「畏まりました」


 女性神官が立ち去ると、ベッドの中央付近へ座るよう言われた。呼ばれたのは、治療道具を持った医師だった。神官は地方へ赴けば、医師として働くことも多い。資格を持つ者はたくさんいるのでしょう。手際よく傷を消毒する。よく見たら、腕や肩にも小さな傷があった。


 割れたガラスが飛んだのでしょう、と医師が消毒していく。薬草を貼り付ける際、落ちやすい場所は包帯を巻いた。大した傷ではないのに、あっという間に包帯が数箇所に増える。入ってきたラーラが、手早くガラス片を処理してくれた。


「ありがとう、ラーラ」


「い、いえ……」


 なぜかラーラは顔を赤らめる。不思議に思いながら入浴しようとすれば、手当てをしたばかりだからと止められた。女性の着替えは時間がかかるので、入浴へ向かうシリル様と分かれる。


「愛されたご様子に安心いたしました」


 涙ぐむラーラは手際よく着替えを行い、なぜか濡れたタオルで肌を清めた。普段はそんなことしないのにね。

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― 新着の感想 ―
十代前半には呪いかぁ。な
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