32.ずっしり重い首飾り
廊下に出たら、シリル様が待っていた。凛々しいというか、華やかだわ。私と色を合わせた彼の装いは、同じ青い絹を使った軍服に似た上着と黒くぴたりとしたパンツ。胸元に金の飾りが入り、大粒のルビーが飾られたブローチが光る。
明らかにペアで仕立てたとわかる形ね。こういう主張は、互いの愛情を示すのに最適だわ。夫婦であることを疑われずに済むもの。差し出された腕を絡めたところで、シリル様の褒め言葉が聞こえた。
「すっごく綺麗だ。花嫁衣装も素敵だったけれど、今日は一段と艶やかだね。こんなに美しいマリーと結婚できて、僕は最高に幸せだよ」
「ありがとう、シリル様。私もあなたと夫婦になれてよかったわ」
屈んで頬に唇を押し当て……ようとして思い留まる。危なかったわ、赤い紅がべったり付いてしまうところだった。
「口付けをしてくれないの?」
子供っぽい口調で強請られ、あとでと返す。
「頬に紅が付いてしまいますわ」
「付けてくれたらいいのに」
そうはいきません。どう見ても、年端もいかぬ少年を襲った痴女になってしまう。まあ、他の方に嫁ぐ予定はないので、悪評が広まってもいいけれど。いえ、やはり国の名誉のためにやめておきましょう。
結局、ディーお義姉様と準備した服は後日となった。大忙しで仕上げた針子達には、悪いことをしたわ。見せつけるために、別に仕立てていた服に変更したと聞いている。
腕を組んで歩くスカートの中は、踵の低い楽な靴を選んだ。身長差が少し縮まるし、挨拶で歩き回ると聞いたから。プリンセスラインのスカートなら、足元はまず見えないわ。夜会で踊る予定はないと聞いたので、踵の低い靴が最適ね。
王族の控え室に入り、呼び出しを待つ。クリスお義兄様とディーお義姉様は、それぞれに引き立てる装いを選んだ。紺に近い深い青を着たクリスお義兄様は、宝飾品を金で揃えている。ディーお義姉様は鮮やかな深い赤のドレスだった。
「あなたの歓迎会だもの。ちょっと寄せてみたの」
そう言って笑うディーお義姉様の胸元に光る大粒の宝石は、ダイアモンドかしら。細かな金細工の鳥籠に閉じ込めたようなデザインが素敵。褒めていると、思わぬ単語が聞こえた。
「ダイアモンドは、ソールズベリー王国の特産品だもの。あなたの首飾りの方が大粒なのよ」
「……私の?」
これ、水晶じゃないの? 大粒すぎて、水晶だと信じて疑わなかった。高価なダイアモンドだと知り、軽く震えてしまう。
「どうしたの、マリー」
「こ、これ……本当にダイア……モンドですか?」
「当然だよ。我が国の妃が外交の夜会で身につけるなら、ダイアモンドが定番だからね」
さらりとシリル様に肯定されて、恐ろしくなってきた。絶対に誰にも触れさせないで、無事にお返ししなくちゃ!




