31.夜会は女性の戦場ですもの
真っ青で艶のある絹は鮮やかに光を弾く。まるで虹がかかったように、光で色が変化するのはすごいわ。この技術が伝わったら、絶対にお姉様がドレスを作ると思う。輸入だと高いから、なかなか手が届かないのよね。
白でも色の変化が望めるなら、花嫁衣装用にプレゼントしてもいいかも。そんなことを考えながら、スカートを装着した。夜会は華やかさと同時に、異性との距離感が問題になるの。酒が出るので、酔って問題を起こす男女が後を絶たなかった。
未婚のご令嬢はもちろん、既婚者でもプリンセスラインが多いのはそのせいね。膨らむスカートの大きさだけ、距離が取れた。抱きつかれても、逃げる余裕ができるのよ。もちろん人目が少ないほうへ行かないのは大事だけれど。
中に動物の骨で作られた傘が入っているから、横になることも不可能なのよ。私の場合は小さな短剣も骨と一緒に装備されている。いざとなったら、これで相手を刺しても許されるらしい。王宮の侍女から説明を受けた。ソールズベリーは奔放な方が多いのかしら?
王家に嫁いできた、隣国の元王女に手を出そうとする殿方がいるなんて。そう呟いたら、まだお顔が知られておりませんので、と返された。知らない若い女性がうろうろしていたら、危ないという意味? やっぱり、性に奔放なのかも。
骨の傘に青いスカートを被せ、後ろ側を縫い止める。これは脱ぐ時も大変だわ。上半身は地紋と金糸の刺繍が入ったビスチェを装着。押して上げた胸を強調する形で後ろを縫う。それから金の帯をベルト部分に巻いた。
かなり派手だけれど、シリル様の瞳の色なのは素敵ね。そう思って座ろうとしたら、侍女に止められた。ラーラは化粧の支度を整えている。
「失礼致します」
黒いレース編みをスカートに被せる。これは大きな三角形で、冬に肩に掛ける毛糸のショールのよう。それをスカートの左右に掛けた。ほぼ交差する部分がないのは、左側はやや小さな三角だからね。ブローチのような金飾りで留めた。
さらに上から羽織るのは、肘まで隠す黒レースの上着よ。丈が短くて、ほとんど腕を隠すだけ。背中も覆っているけれど、腰まで届かない。綺麗に飾ってもらい、ようやく椅子に座って化粧が始まった。こういう時の椅子は、背もたれがない。スカートの中に入れて座るから、滑ってひやりとするのよね。
どきどきしながら、慣れたラーラの手で化粧を施してもらう。最後に髪をふわりと広げた。赤毛だから青と喧嘩するのでは? そう思ったけれど、髪の間に黒いレースのリボンを絡めている。一体感があって華やかだけれど、派手すぎない。こういったセンスは本当にすごいわ。
感心しながら、大粒の水晶がついた金細工の首飾りと耳飾りを着けて……さあ、夜会に出陣よ!




