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26.国王陛下の正式なお呼び出し

 翌日、クリスお義兄様から呼び出されて、大騒ぎになった。というのも、国王陛下として正式な要請だったの。いつもの控え室や私的な客間ではなく、謁見の間へ来るように、と。


 本日の予定として告げられたのは、調査結果の報告、国として正式な謝罪と賠償の打ち合わせだった。当然、私が国を代表して決められる立場ではない。要請されたヴァイセンブルクの宰相が、数日前からこちらに向かっている。文官を引き連れての移動に、護衛の騎士が加わるので大所帯らしいわ。


 謝罪と賠償が組み込まれているのなら、ソールズベリー王国側に不手際があったのね。ひとまず、国同士の軋轢が生じないよう、私が橋渡しをしなくては。


「今日は華やかな装いにします」


「よろしいのですか?」


 ラーラは不思議そうに尋ねる。謝罪を受ける立場なら、やや控えめなドレスを選ぶのが謙虚さを示すとされてきた。ヴァイセンブルクの慣例を破る形になる。


「構わないわ」


「僕に選ばせてくれる? マリーの希望通りにするから……いい?」


 昨日とは打って変わって不安そうなシリル様が、必死で縋ってくる。私が母国に帰ってしまうと思っているの? 黒髪に両手で触れた。誰かの頭を撫でるなんて、久しぶりだわ。そのまま手をずらして、彼の頬を包む。


「私は帰りません。安心してドレスを選んでください。華やかに、幸せな花嫁と見せつけるための演出です。任せました」


 理由もしっかり告げて、シリル様に託した。目を輝かせ、ドレスの中に飛び込んでいく。ラーラを呼んで、いくつか引っ張り出した。応援に来ていた王宮の侍女達も手際がよく、ドレスを並べてシリル様の指示に従う。装飾品も一通り用意された。


「幸せそうに見える色……どれがいいか」


 真剣に悩むシリル様の様子に、声をかける。ディーお義姉様の言葉を思い出したのよ。この国では、婚約者や夫の色を身につけない。自分に似合う色を選ぶの。でも……ヴァイセンブルクは違うわ。


「ヴァイセンブルクでは、婚約者や夫の色を纏うのがマナーです。黒か青をふんだんに使ってください」


「なら、これだね」


 選ばれたのは真っ青なドレスだった。上半身はぴたりと体のラインが出ており、裾がマーメイドタイプ。ただ、膝の辺りから大きなスリットが入っていた。その部分は黒い艶のある絹が顔を覗かせる。プリーツ状になった黒絹は、歩くと広がるデザインらしい。脇部分や背中の一部にも黒が使われていた。


「金刺繍が入っているから派手で、マリーの瞳の色とも合う。僕の色が両方含まれているよ」


「ありがとうございます。これにしますわ」


「僕も着替えてくるから」


 え? もう着替え終えていたのでは? その明るいグレーの服もお似合いですのに……。飛び出すシリル様を見送り、侍女達と顔を見合わせた。


「お時間がありません!」


 指摘され、慌てて着替え始める。髪を結いあげ、一房だけ左側に流す。アクセサリーは琥珀を中心に真珠も添えた。準備はできた。鏡の前で確認し、廊下で待つ夫の元へ向かう。


 私はシリル様の妻ですもの。母国の方々に、幸せだと信じてもらえるよう頑張りましょう。

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