25.新婚ですもの
赤い顔の理由を根掘り葉掘り聞かれて、汗びっしょりで朝から入浴した話も加わり、ディーお義姉様も赤くなった。金髪のディーお義姉様は水色のドレスで、色は被らなかったわ。ほっとする。
「いやだぁ、新婚だものね」
新婚だと汗だくで目覚めるの? ああ、なるほど。抱き合って眠るから、この暑い季節は大変という意味ね。
「新婚ですもの」
ほほほ、と笑って話を合わせた。そこで思い出す。昨夜、シリル様から聞いたばかりの案件よ。きっちり問い詰めないと!
「ディーお義姉様、私のソベリ語についてですが……なぜ、方言を指摘してくれなかったのですか。あれでは私がうっかり話して、恥をかいてしまいます」
「だって、可愛いんですもの」
にっこり笑って返すディーお義姉様に、悪気はないのでしょう。でもヴァイセンブルク王国の王女である以上、きちんと話せないと教えてくれたほうがいい。そう伝えたら、申し訳なさそうに謝ってくれました。本当に悪気はなかったのね。
「方言が可愛いのですか?」
「えっと……どちらかといえば、マリーが口にするから可愛いのよ」
ディーお義姉様の話を纏めると、完璧な淑女の姿と声でおっさん言葉が出てくるのが、なんとも萌えると。萌えとは何かしら。我が国にはなかった概念だわ。
「昨夜はアルと仲良く話せた?」
「はい、いたって穏やかに。私を好きと言ってくださいました」
自分からも言ったけれど、そこは教えなくていいわよね。せっかくなので、クリスお義兄様のことも聞いてしまいましょう。
「クリスお義兄様とは、どうですの? 恋愛だったのですか」
「……実はね、私が一方的に好きだと思っていたの。クリスも同じで、自分だけが私を好きなつもりでいて。お互いの気持ちを知るのは、結婚から一年も過ぎた頃だったわ」
素敵! こういう恋愛のお話をしたかったの。聞いてもお姉様は照れて話してくれないし、お母様は真っ赤になって黙ってしまう。お父様なんて、聞こえないフリをなさったのよ? お兄様が多少教えてくれたけれど、全然熱量が足りなくて。
「そのドレス、私の色ね。すごく似合っているわ。黄色に緑の瞳、どちらも取り入れてくれて嬉しい」
「シリル様が選んでくださいました」
言葉にされて、緑はディーお義姉様の色だったと思い至る。そんな気はなかった、と言わない方がいいわよね。喜んでくださっているんですもの。
「義妹ができて、本当に嬉しいわ。アルを見捨てないであげて。でも……どうしても無理なら、私に教えて頂戴。なんとかするわ」
「ご心配ありがとうございます」
まだ大丈夫とも、無理とも言えない段階よ。でも言わない気がするの。私だけを見て、私だけを愛してくれる人がいる。顔は可愛くて綺麗だし、背はこれから伸びるわ。逞しくなって私を抱き上げる日が楽しみなの。
素敵な政略結婚になって感謝……あら? 政略結婚の原因だった侯爵家のご子息、どうして生きていたのかしら。いえ、生きていてご家族は喜んだでしょうけれど、何があったのか気になる。
聞いてもいいのか、迷う。その日は何も聞けず、お茶会は終わった。




