24.シリル様と私は相性がいいわ
朝、王宮の侍女経由でディーお義姉様から、お茶会の誘いを受けた。もちろん参加するわ。
「休んで僕と過ごそうよ」
私が逃げなかったことで、シリル様の甘えが前面に出てきた。末っ子だったので、弟妹が欲しかった私は嬉しさを噛み締める。でも、夫なのよね。昨夜はずっと抱き合って眠った。汗をかいたけれど、シリル様は腕を緩めなくて。
汗で張り付いた夜着を脱がせながら、ラーラが呟く。
「マリー様はいま、お幸せですか?」
「ええ、とても幸せよ。皆様、私を大切にしてくれるわ」
そう答えたら、ラーラは納得したみたい。ソールズベリー王国に腰を落ち着ける気になった、そう笑った。私がヴァイセンブルクに帰りたいと言い出したら、連絡するようお姉様に頼まれていたんですって。
「もう決めたの。ソールズベリー王国で生きていくわ」
シリル様の執着は、本物よ。年齢差があっても、離さないと言い放った。ならば、信じてみようと思う。どちらにしろ、ヴァイセンブルク王国に損がない話だもの。
「お茶会は何色のドレスがいいかしら。同じ色は失礼よね」
クローゼット部屋であれこれと選ぶ。明るい色で、ディーお義姉様と被らない色がいいわ。王宮の侍女はドレスの色を指定していかなかった。こちらから聞けばよかったのだけれど……。
「ディーお義姉様は、絶対に黄色を着ないよ」
シリル様が顔を覗かせ、ぼそぼそとアドバイスをくれた。日に透ける美しい金髪だから、黄色だと印象がぼけてしまうのかも。納得しながら、シリル様を手招いた。
「せっかくですもの、私のドレスを選んでくださいな」
「いいの?! 僕が選んだドレスを着てくれるんだよね? 本当に?」
いきなり饒舌になったシリル様に、ラーラは驚いた顔をしたが取り繕う。いそいそとドレスの森へ入っていき、私達を手招いた。私は赤毛なので、赤いドレスはほとんどない。近い色なら、オレンジかしら。
「これはどうだろう」
裾と襟に緑の糸で刺繍が施された山吹色のドレスだった。私が着ると派手になりそう。
「こうしてスカーフを使えば、ほら。いいだろう?」
シリル様の口調は、昨日までより柔らかくなった。年齢相応なのか、親しげに笑いかける。思わず見惚れてしまい、慌ててドレスへ視線を移した。山吹色の一分袖ドレスは、織り方が特殊で地模様が入っている。
派手になりそうな色を、深い森の緑色のスカーフで隠す。それも襟ではなく、ベルトの位置から下で。一番面積の大きなスカートを半分ほど隠すことで、派手さは抑えられた。
「素敵ですね、こちらにしましょう。化粧と髪をお願いね、ラーラ」
「承知いたしました、マリー様」
準備を整え、呼びに来た王宮の侍女と歩き出す。
「義姉上のところまで、送るよ」
紳士的な振る舞いだけれど、私を離したくないのね。そう理解したら、嬉しいやら恥ずかしいやら。でも嫌な気持ちではなかった。
「お願いいたします」
手を繋いで歩く。そのまま部屋に入るのかと思いきや、シリル様は私の手の甲へ唇を押し当て「迎えに来るから」と言い置いて去っていった。真っ赤な顔で入室することになり、ディーお義姉様の視線が痛いわ。
 




