22.この国に残ってほしい
衝撃の告白のあと、さらにお話を聞きました。過去に捕まえて監禁した猫は、構われ過ぎてストレスで禿げてしまったとか。気に入った子を連れ去って部屋に隠したとか。やらかしているな、と思うくらいには事件でした。
ただ、私としては嫌な感情は湧かなかったのです。愛情が重すぎるだけで、受け止めてくれる人がいたら落ち着くのではないかと。
「そんなふうに考えられるのは、周囲の人だけだ。君は当事者なんだよ、マリー」
「当事者、ですか」
クリスお義兄様によれば、物や動物のときは処理してきたらしい。王族なので、ある程度の我が儘を許される立場だったのは理解します。それ以外の部分では優秀で、大人びた対応をするので、周囲が惑わされてしまう。
礼儀正しく、きちんと順序立てて物事を進める秀才児が、他人を監禁する癖がある。そう言われても、一般的には信じ難いですよね。頷きながら聞き、時々質問を挟みました。クリスお義兄様達は、シリル様が私に執着すると思わなかったそうです。
政略結婚で、それも賠償の代わりに嫁いでくる。シリル様は承諾したが、お飾りで放置するだろうと考えたようです。そうなった時のため、クリスお義兄様やディーお義姉様は私を優しく受け入れてくださった。王族同士の結婚である以上、逃げ道を用意しておくのはわかります。
「まさか、マリーが執着の対象になるなんて」
「えっと……飽きて放り出したりは……?」
「過去に一度もない。無理やり取り上げたことはあるが、結局……その物を壊してしまった」
驚いて目を見開く。
「手に入らないなら、壊す。壊してしまえば、執着対象から外れるらしい」
気に入った子はどうなったのか……聞きたいような、聞きたくないような。いえ、聞いてはいけないのですね。
「マリー、君が母国に戻りたいなら協力する。だが、少しでも好意があるなら……アルの側にいてやってほしい。これはアルの兄としての願いだ」
母国に支援してもいい、そんな話を聞き流しました。私が知りたいのは、そこではありません。重要な部分は一つだけ。
「本当に、シリル様は私に執着して、いるのですか? 勘違いではなくて?」
「絶対に間違いないわ」
「先ほどの呟きは本音だろう。執着は事実だ」
二人が口を揃えて、間違いないと言い切る。物騒な狂人だと言われるシリル様。彼が執着して手放したくない対象が、私? 口元が緩むのを抑えきれませんでした。だって、本音で言うなら嬉しいんですもの。
「少しお時間を頂いても構いませんか?」
「ああ、そうだな。考える時間が必要だ」
クリスお義兄様は気遣う言葉と猶予をくれました。さあ、離宮に戻ってシリル様と対峙しましょう。本気で私が欲しいと言ってくださるまで。




