21.愛が重い、のですか?
あのあと、シリル様は笑顔でこう説明しました。私が貴族に傷つけられないよう、僕が守る。だから新しい公爵邸で暮らそう。でも社交は、王宮絡みだけでいいよ、と。
「本当にいいのですか?」
「もちろん! 僕は君の夫で、庇護者になりたいんだ。貴族が何を言おうと、黙らせる」
笑顔で請け負うので、言い出せませんでした。今後はまだ未定なのに……とか。将来、もっと若い同年代のご令嬢に心変わりするんでしょう……とか。なんだか意地悪を言う感じですし、シリル様に「そんなことしない」と約束させようとするみたいで。
言質をとるような振る舞いは慎むべきです。ベッドに腰掛けて話したので、訪ねてきたディーお義姉様も、そのままお迎えしました。立ちあがろうにも、シリル様の膝枕中でしたので。
「っ、邪魔してごめんなさいね。まだ決めていないことがあるから、マリーを借りたいのよ」
疑いの眼差しを向けるシリル様に、首を横に振りました。そのような態度はよくありません。言い聞かせたら、きちんと聞いてくださる方です。
「わかった。終わったら、すぐ戻ってきて……待ってるから」
「はい、もちろんです。帰るお部屋はここですので」
現時点での話をしたのですが、不思議と嬉しそう。やっぱり好きです。可愛いですし、私を大切にしてくれます。年齢差がなければ、政略結婚でも大当たりでしょう。
シリル様の見送りを受けて、ディーお義姉様の後ろを歩きます。また本宮へ向かうようですね。先ほどの部屋に戻れば、クリスお義兄様も待っていました。
「……アルの先ほどの言葉なのだけれど……」
ぽつりとディーお義姉様が切り出し、手で止めたクリスお義兄様が続けました。
「君に言わせる気はないよ。あれは私の弟だ」
弟に「あれ」ですか。私は末っ子ですが、お兄様はお姉様に対して「あの子」などと表現しました。同じで、親しみを込めた表現なのかも。
「マリー、君には申し訳ないことをした。政略結婚だからと、大切な説明を省いたことを詫びる」
国王陛下が詫びていいの? 家族で、私的な場だからでしょうか。
「アルは……病的な部分があって、その、独占欲が異常に発達している」
そこは発達したら、まずい感情なのでは?
「好きなものを見つけると、人でも動物でも物でも関係なく……持ち帰って隠す癖がある。酷いことはしないから安心してくれ。アルなりの愛情を注いで大切にしている。ただ、その愛情が重すぎて……人だと逃げてしまうんだ」
「愛情深いだけなのでは?」
お相手に選ばれた方が、たまたまドライな人だった可能性もあります。ベタベタされるのが嫌いな人はいますので。フォローするつもりで言葉を選ぶが、クリスお義兄様は首を横に振った。
「全然違う。先ほど口にしたソベリ語での、隠すは本心だろう。マリーを閉じ込める気だ」
まぁ、それは……それは。なんとも予想外ですわ。どうお答えしたらいいのかしら。




