17.根底から覆るじゃないですか
朝食を仲良く頂いた直後、ディーお義姉様が私を迎えにきた。使用人を用意したのとご機嫌で手を引く。首を傾げながらついて行った。
「ここから選んでいいわ」
「……王宮の使用人ではありませんか」
全員が制服姿のまま、行儀良く手を前で揃えて立っている。ざっと見た感じ、庭師や料理人も含まれているみたい。
「ええ、一通り揃っていると思うのよ」
使用人って、私が選ぶの? お父様達は選んでいたかしら。いいえ、使用人頭となる侍従長などが選んで、報告だけ受けていたと思う。ディーお義姉様にそう伝えた。
「ならば、侍従長だけ選びましょうか」
「シリル様が決めなくて良いのですか?」
「あの子は別の仕事で忙しいの」
家のことは妻の役割、夫がいない間は女主人として振る舞わないと。言われて納得した。ディーお義姉様の意見を参考に、新しい屋敷の執事を決める。侍従長だとお城みたいだもの。彼に侍女や庭師、料理人から馬番まで選んでもらうことにした。
新婚って、こんなに決めることが多いのね。お父様達が決めて与えるのが当たり前だったから、いかに楽をしてきたか。今になって申し訳ない気持ちになった。
広間での使用人決めが一段落し、一緒に庭を散策した。お披露目の夜会が行われるため、いくつか確認される。飲食物の好き嫌いや呼びたい友人の数など。母国から呼ぶのは大変なので、今回は見合わせると説明した。代わりに祖父と姉、母が来てくれる予定よ。
「寂しいわね」
「いいえ、この国で皆様が優しくしてくださるお陰で、まったく寂しくありません」
お世辞ではなく、正直な感想だった。価値観の違いで驚き、文化の違いに戸惑う私は、寂しがる暇もない。シリル様は優しく気遣ってくれるし、クリスお義兄様やディーお義姉様も実の家族以上に気遣ってくれた。何も不満はないわ。
「そう言ってもらえると有り難いわ……実はね、その……非常に申し訳ない事態に、なって……」
「……はい、?」
返事をしながら首を傾げる。何があったのかしら。ディーお義姉様の顔色が悪い。体調不良なら大変よ。侍女に声をかけようとしたら、後ろにいるはずの彼女達が見当たらない。
「……ごめんなさい」
ぽつりと謝罪をされ、泣き出しそうなディーお義姉様に驚く。何があったの? もしかして、やっぱり宝石が高額すぎてダメだったとか。そういう話なら、私は全然気にしませんから!!
「今朝報告が入って、クリスも私も初めて知ったの。それは嘘じゃないわ」
捲し立てたディーお義姉様の勢いが萎んでいく。小声でぼそっと告白した。
「アッシャー侯爵家の次男が……生きていた、みたいなの」
「は、い??」
勢い込んで宝石は要らないと言いかけた私は、ぴたりと止まる。ついでに一瞬だけ息も止まった。そのくらい驚いたの。
侯爵家、クラッシャーじゃなくてアッシャーだった。それで、次男が生きて? あれ? だって侯爵令息が亡くなったから、賠償で……政略で……?
「説明、してください」
私の声は掠れていた。




