16.嫁入りはお詫びになるのかしらね
夫婦の寝室へ戻ってきて、ほっと一息つく。クリスお義兄様もディーお義姉様も、私にすごく優しかった。気を遣わせているんだわ。
これは政略結婚なの。ソールズベリー王国のクラッシャー? じゃなくて、何だったかしら。似たような響きの侯爵家のご子息がお亡くなりになったお詫びだもの。人質なのよ。勘違いしたらいけない。
自分に言い聞かせ、入浴後の火照る体を冷たい水で冷やす。飲んだ水は果汁と氷が入っていた。ラーラによれば、用意した侍女は「柑橘水」と呼んでいたとか。ちょっとした部分にも、我が国との違いが出ているわ。
王族である私からしても贅沢な、宝飾品、家具、氷入り果実水が日常なら、生活水準が違いすぎた。人質なのに、罰ではなくご褒美になってしまう。良いのかしら。
そもそも、政に関わる勉強は最低限だったので、知識不足なのだけれど。我が国の不手際で侯爵令息が亡くなったとして、王弟殿下へ王女が嫁ぐことはお詫びになるの? 賠償金を求めたほうが良いと思う。もちろん、この国のほうが豊かだとしても、よ。
クッションを抱いてベッドに転がっていると、シリル様が戻ってきた。先ほど脱いだ上着を侍従に手渡し、早く部屋を出ろと急かす。私が夜着だから? 気遣ってもらってありがたいわ。
淑女の薄着は「夫以外に見せない」決まりがあるけれど、これは両国一緒だった。ただ、使用人は異性や人に数えないの。ソールズベリー王国では違うのかしら。こうなってくると、専属の教師をつけてもらい、学ばないといけない。
あれこれ違いがあるのに、知らずに粗相をしたら母国の家族に恥をかかせるわ。それに、このソールズベリー王国の貴族も不愉快にさせてしまう。交流や外交に支障が出るし、シリル様に恥ずかしい思いをさせるのも気が引けた。
若すぎるけれど、その一点を除いたら理想的な旦那様だもの。できたら、円満に暮らしたかった。
「シリル様、私にこの国のルールやマナーを教える教師をつけてくれませんか?」
「いいけれど……立候補しそうな人に心当たりがあるし」
「助かります。それと……今日選んだ宝石なのですが……」
気に入らないのかと心配するシリル様に、首を横に振った。
「あれは高価すぎます」
「安い宝石を贈って恥をかくのは、兄上達だぞ?」
ああ、やっぱり。プレゼントなのね。断れないわ。話が噛み合わないまま、明日も早いので横になる。隣にシリル様がいなければ、潜って叫びたいところよ。どうしましょう……。




