13.持参金で足りるか心配よ
真剣に宝石を吟味する。王族教育の一環に、宝石類の鑑別や知識が含まれた。他国からの来賓や貴族が身に着ける、装飾品の価値を判断するためよ。
自国の貴族なら、領地の納税状況を把握している。脱税や無理な課税をしていないか、王族が見極める必要があるの。
他国の来賓の場合は、相手国の財政状況がわかるでしょう? それに加えて、褒める際にもある程度の価値は知っていた方がいいの。「こちらの指輪、見事なサファイアですね」と褒めるのと、「この指輪の宝石は何かしら、素敵ね」では印象が変わる。
王族が愚鈍だと判断されたら、外交に支障が出るもの。自国の利益を守り、他国と対等に話すために、最低限の知識が必要なの。
だから、宝石の種類は判断がつく。ここに並んでいる宝石は、どれも品質が高すぎるわ。嫁いだばかりの私には、豪華すぎる。ごくりと唾を飲み、迷いながらディーお義姉様を見上げた。
「どれが気に入ったかしら?」
「あの……もう少し小ぶりな石がいいのですが」
お値段を口にしたら、王妃であるディーお義姉様に恥をかかせてしまう。どう断ろうか考えながら、小粒なら安いかもと思いつく。
「あら。目が高いわね」
え? 思っていた反応と違う……。
「まこと、審美眼の高い姫様でいらっしゃいます。感服いたしました」
商人も一緒になって褒め始め、困惑する間に別の宝石箱が出てきた。専用の柔らかな布へ、一つずつ並べられていく。小粒になったけれど、色が違う。深みというか、迫力が全然別物だった。
「ディーお義姉様?」
「やはりこのくらいの宝石でないと、ね。髪色も金に近い赤毛で、琥珀の瞳……そうねえ、緑なんてどう? 嫌いでなければ、エメラルド」
照りの美しい宝石を摘み、私の顔の横に持ってくる。うーんと考え、別の宝石を選んだ。
「緑なら、ガーネットも似合うわ」
緑のガーネットって、珍しいですよ? この国で産出しますが、私の国ならエメラルドの数倍するのに?! 自国で取れる宝石のほうがいいだろう、とディーお義姉様は、一人で話を進める。商人が相槌を打ちながら、手早くエメラルドを片付けた。
代わりに宝石箱からは、ガーネットが追加で取り出された。緑が深く森のような色は、吸い込まれる美しさがある。並んだ石を眺め、ディーお姉様は悩み始めた。
「新しい宝石ですが、こんな宝石はいかがでしょう」
他国から入ってきたばかり、そんな触れ込みで夜空を閉じ込めたような青い石が出てきた。きらきらして綺麗だけれど……。
「アルの瞳の色と違うから、やめましょう。この石がいいと思うのだけれど、マリーはどう?」
手のひらを上に向けて固定され、ころりと緑の宝石が乗せられる。そっと左手の指を添えて押さえ、目線の高さに持ち上げた。
吸い込まれそうな森の色、綺麗ね。
「気に入ってくれてよかったわ。次はデザインね」
心の中から、声になって漏れ出ていたみたい。
「ディーお義姉様、これ……その」
高いでしょう? と聞けなくて、おろおろしている間にデザイン画と枠が用意された。楽しそうなディーお義姉様に何も言えず、デザイン画を覗く。持参金で足りるか、心配になってきたわ。足りなかったら、申し訳ないけれどお父様にお願いしましょう。




