12.習慣の違いがたくさん!
王宮の侍女が迎えに来て、素直に後ろに着いていく。通されたのは、客間のような部屋だった。壁には絵や壺が飾られて、応接セットがある。手招きされてソファーに腰掛けた。廊下に出る扉の他に、もう一つ扉があるわ。
「おはようございます、ディーお義姉様」
「おはよう、よく眠れた? マリー」
「はい、お陰様で」
素敵なお部屋を用意して頂いたんだもの。不満なんてないわ。
「昨夜もシリル様は優しくて、とても素敵でした」
やはり夫のことを褒めておいたほうがいいだろう。そんなつもりで、軽く伝える。何が、を省いて曖昧に伝えた。だって、具体的にどこが優しいの? とか聞かれたら困るもの。微笑んでおいたら、ディーお義姉様が「そ、そう?」と挙動不審になった。
視線をさ迷わせて、落ち着かない。首を傾げて、壁際に控えるラーラに助けを求めるも……彼女も視線を逸らしていた。隣でお茶を用意していた侍女も、固まっている。お茶がカップから溢れそうよ?
「あの……」
「し、失礼いたしました」
慌ててカップを交換し、溢れたお茶を布に吸わせる。火傷していないといいけれど。
「……っ、商人を呼びましょう」
ディーお義姉様の合図で、もう一つの扉が開いた。侍従だけでなく、騎士も同席するのね。宝飾品があるから? それとも怪しい人物に警戒しているのかも。
商人は数人の使用人を連れており、一礼して挨拶を始めた。初顔合わせの私がいるからか、肩書きや王宮との取引回数の多さを披露し、最後にアッシャー商会と名乗る。王宮の御用達商会なら、覚えておきましょう。
「丁寧にありがとう。王弟アリスター殿下の妻、アンネマリーですわ」
名を呼ばずに、挨拶だけ返した商会主は賢いわ。貴族夫人や令嬢の名を許しなく呼んだら、罰を受けるもの。ただ名前を覚えておくために、頷いて受けるだけなの。こういった作法が身についているのは、王宮に出入りする商人として合格点ね。
「ご用意させていただいたのは、こちらになります」
サファイア、ルビー、ダイアモンド、エメラルド……琥珀や真珠も。様々な宝石がずらりと並んだ。隣には枠だけが用意されている。
「ソールズベリーでは、こうしてセミオーダーで作るのよ」
私の表情から疑問を読み取ったディーお義姉様が、教えてくださった。これなら好きな宝石で、気に入ったデザインを選べるのね。
「夜会に間に合いますか?」
「間に合わせてくれるわ」
商人も頷くので、そうなのねと納得した。この場合、最初に選ぶのは宝石よね。それから枠を選び、サイズを合わせてもらう。
「シリル様の瞳の色などいかがでしょう」
「あら! そうだったわ。ヴァイセンブルクでは、婚約者の色を身につける習慣があったのね」
「ソールズベリーにはないのですか?」
「ええ。合わせる恋人はいるわよ。でも夜会などで使う宝飾品は、本人の髪や瞳、肌の色に合わせて選ぶの。似合うもので着飾るのが、配偶者へのマナーよ」
目から鱗だわ。でもそうよね、妻と夫で色が正反対だと、似合わない色なのに身につけることになる。夫の色を選ばなくていいなら、私は何色が似合うかしら。




