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11.まだまだわからないことだらけ

 朝は侍女のノックで目覚める。いえ、その前に目が覚めていても、横になったまま待つのがマナーなの。彼女らの仕事を奪うことになるのよ。勝手に起きて支度をするなんて、論外だった。ここは両国同じ認識なので、二人でひそひそ話をするの。


 ドレスのデザインの話をしたら、シリル様の衣装のことを聞けた。色や生地、装飾の雰囲気を似せて作ったみたい。襟元にひらひらしたフリルのついたシャツ? 袖は後付けのフリル! 絶対に似合うわ。さすがディーお義姉様、いい仕事をなさいます。


「あんなの、僕には似合わないと思う」


 ぼそぼそと文句を言うシリル様の唇が尖った。ピンクで綺麗で可愛い。指で押したい衝動を呑み込み、お姉さんらしい微笑みで諭した。


「シリル様は素敵ですもの。どんな装いでも似合いますわ。私が保証いたします」


 保証してどうする! 言葉にした直後に自分で突っ込んでしまったが、シリル様は満更でもなさそうで。


「本当に似合うと思うか?」


「ええ、惚れ直すでしょうね」


 可愛くて見惚れる、を言い換えてみる。満足して頷いたところへ、起床時間を知らせるノックが響いた。


「どうぞ」


「起きた」


 それぞれに応じると、さっと侍女が入ってくる。彼女の説明によると、明日から専属の執事がつくらしい。シリル様も既婚者になったので、今後は男性の侍従がお世話をする。本当は結婚式の翌日からの予定だったが、いろいろ手配が遅れたんですって。


 承知したと伝えるシリル様が先にベッドを出る。これも慣例どおりよ。侍従がつくようになれば、妃の薄衣姿を見せるわけにいかないもの。シーツに包まって、侍女だけになるのを待つのよ。


「肩が見えてしまうよ」


 シリル様はさっと手を伸ばし、私の肩を完全にシーツで覆った。首だけ出ている状態にして、満足そうに出ていく。一礼した王宮の侍女が後を追い、隣室の扉が閉まる。


 そういえば、シリル様の部屋は扉で仕切られているのに、私の書斎へ繋がるアーチに扉はない。この理由も聞いてみようと思っていたの。この国独自のしきたりかしら?


「姫様?」


「ねえ、ラーラ。私は既婚者になったのだし、もう王女じゃないわ。呼び方を変えましょう」


「……奥様、でしょうか」


「公爵家に移ればそれでいいけれど……そうね。しばらくは名前にしたらどう?」


「畏れ多いです」


 マリー様とか、呼ばれてみたかったのに。朝食後はディーお義姉様にお会いするのだし、相談してみようかしら。


 考えている間にも、クローゼットのドレスに袖を通して後ろを留めてもらう。王侯貴族のドレスは、後ろの包みボタンが主流だった。これは自分で脱ぎ着しない階級と財力の証であり、純潔を守る覚悟でもあるの。


 襲われそうになったら、必ず壁や家具を背にすること。脱がされる危険を小さくし、襲撃された場合も安全を確保する方法と教わった。確かに後ろから襲われないなら、敵は見える範囲だけになるわ。


 粉を叩いて紅を引き、目元にほんのりとピンクを添える。頬べには昼間は使わないわ。夜会なら映えるけれど。私の顔立ちだとクドくなっちゃうのよね。赤毛は結い上げてもらった。既婚者だし、装飾品を着けたり外したりするのに、髪が邪魔になりそう。


「いつもありがとう、素敵だわ。行きましょう、シリル様をお待たせしてしまうわ」


「はい」


 ラーラを連れて廊下に出て、腕を組む。いつも待たせてしまうけれど、それが楽しいと言ってくれる優しい夫を得たのは幸運だった。もし彼に将来好きな人ができたら、悲しいけれど別れる覚悟もしておこう。こんなに素敵な人なら、誰もが惚れてしまうものね。


 朝食は驚くほど美味しくて、食べ過ぎたみたい。すこし苦しいわ。

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