011.離さないでね、シリル(最終話)
「陣痛の前に、痛みや違和感を覚えたら知らせるように言いましたよ」
叱られながら気張る。ぐっと痛みをこらえ、楽になるとぐったりとベッドに懐いた。痛みに気づくのが前回より早かったようで、半日はこのままだとか。この激痛が、定期的に、半日も続く? 無理! やっぱり無理だわ。
叫びながら時間が過ぎていき、屋敷内では準備が整ったみたい。お湯や布の手配をしていたラーラが、いつの間にか手を握っていた。そこはシリルの場所だけど、今はいないから……繰り上がりでラーラが陣取る。子供達はどうしているのか、心配になって尋ねた。
「ご安心ください、隣の部屋でおやつを食べています」
「おやつ? うぐぅ!」
また激痛が走り、ラーラの手を潰す勢いで握る。痛みが和らいだら、さっきまで何の話をしていたか思い出せなくて、また子供達のことを聞いた。笑いながら教えてもらい、安心したような……ちょっと悔しいような。
シリルに連絡が行ったと聞いて、悪いことをしたと思う。だっていない間に生まれそうになったし、急に戻らないといけないし、きっと大変だわ。行きたくないと駄々を捏ねた時「あなたが戻るまで産まないから」と約束したのに。
申し訳なく思っても、激痛は定期的に襲ってくるし、腹は張る。前回の痛みを思い出せないのは、体の防御本能だとか何とか。人の話も右から入って左に抜けていった。そんなの、いまはどうでもいいわ。とにかく痛みを止めるか、つるんと産ませて頂戴。卵、そう……卵ならいいのに!
産むのに理想的な形が卵で、あれは芸術だわ。よくわからない理論を「はいはい、その通りです」とラーラ―が受け流す。ほぼ絶叫しているので、意味は通じていないだろう。自分でもわかるのに、何かを口に出すのは、なぜかしら。
結局、一晩明けても産まれなくて……。二晩目に突入した。これ以上は危険だとか、どちらを助けるか決めてくれとか。とんでもない話が飛び交う。
「出て、こないと……目玉焼きにしちゃ、う! から!! ぐあぁ」
喉が痛くなるほどの絶叫とともに、三人目の我が子が誕生した。
「間に合わなかった? 無事だったか、マリー!」
飛び込んだシリルに「ぎりぎり」と微笑んだ。お互いに約束を守れたみたい。
生まれた三番目はコンラート、男の子だった。同じ響きを続けて「ト」を最後に付けたの。ディーお義姉様からはお祝いの手紙で「男、女、男……お手本みたいね」と褒められた……のよね? シリルは今回のお産が難産だったので、もう子供はいらないと言い出した。でも知ってるわ。
突然、欲しくなっちゃうのよね? 私を部屋に閉じ込めて監禁みたいな状態にすると、興奮しちゃうんですって。それで出来ちゃう。いいわ、痛くても我慢してあげる。だから私を離してはダメよ? 年下のカッコいい旦那様! これからもずっと……私や子供達を守ってね。
頬にキスをして伝えたら、唇を塞がれた。またしばらく、部屋で過ごす日が始まりそう。愛しているわ、シリル。おばあちゃんになっても「可愛い」って言ってくれるわよね?
終
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完結いたしました。お付き合いいただき、ありがとうございますペコリ(o_ _)o))
こういう甘々は楽しいですね(*´艸`*)書いていて、気持ちがうきうきします! こんな感じの軽い話、また書きたいです。次の作品もお付き合頂ければ、幸いです。
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