008.家族でお祭りに行くのよ
ソールズベリー王国は新興国で、周辺諸国から低く見られてきた。というのも、外交では歴史の古さを誇る部分もあるらしいの。不幸な勘違いから私が嫁いで、幸せになった。お父様やお母様を含め、お兄様達もソールズベリー王国を応援している。
最古の血を誇るヴァイセンブルク王国が後ろについたことで、ソールズベリー王国をあからさまに見下す国が減っていると聞いた。とてもいいことだわ。そもそも新しいだの古いだの、国民には関係ないのよ。きちんと税を納めたら、相応の扱いをしてくれる。危険が迫ったら守ってくれる。それがよい王族だもの。
国が機能しているなら、国民に不満はないの。小さな愚痴をこぼしたって、日々の忙しさに消えてしまう程度よ。公爵家のお屋敷に勤める人も、そんな風に話していた。この国は国民の幸せを優先する、とても暮らしやすい国だって。
誇らしいことよ。クリスお義兄様やディーお義姉様の政が、正しく機能している証拠だもの。
「皆で、祭りに行こうか」
シリルがそんな提案をしてきたのは、夏の暑い盛りだった。私はまだお腹が大きくなっていない。だから町へ出ても歩けるわ。それにつわりの時期も過ぎて、体調も安定していた。子供達は大喜びで、シリルの周りをぐるぐると回っている。ステップみたいな足捌きを見る限り、運動神経はよさそう。
「いこ!」
「おまちゅい」
双子は手を繋ぐか抱っこする方向で決まり、本人達にも勝手に歩き回れないことは説明した。子供だからって怒鳴って誤魔化すのは嫌なの。説明すればわかってくれるわ。理解したうえで悪さをしたら、叱るのが親の役目だもの。
「いきましょう、シリル」
「明日のお昼前に出て、向こうで何か食べよう。町も最近は発展してきて、他国からの商人も出店していると聞いた」
「シリルの運営がいいのね」
領地運営は、私も少し学んでいる。末っ子だったし、国内貴族に嫁ぐ予定だったから。兄が国主で、姉は他国の妃となる。末っ子の私を国内に残したいと望んだのは、お父様だった。お母様は「好きな人ができたら、どこへでも飛んでいくのが女の子よ」と笑っていたわ。
賠償の形で嫁ぐことになり、お父様はすごく落胆したの。こんなことになるなら早く嫁がせておくのだった、と泣いたのを知っている。今になれば、杞憂だったのだけれど。私が虐げられると思っていたみたい。正直、嫁ぐまでは私も同じ心境だったわ。
「君が支えてくれるからだよ、マリー」
「はぁく!!」
「いこっ!」
甘い雰囲気を出そうとするシリルの足元で、双子がせかす。明日と言ったじゃないの。おかしくて、ふふっと笑った。腰を下ろし、双子と目線を合わせて言い聞かせる。
「明日よ。朝ご飯を食べて出かけるから、早く寝て準備しないと……起きられないわよ?」
わぁ! 興奮なのか、脅された勢いか。子供達はそれぞれの乳母に向かって突進した。彼女達の制服の裾を引っ張りながら、早く寝ようと騒ぎ始める。窓の外はまだ午後の日差しが傾き始めたばかり。さすがに早すぎるわ。
極端なところは、父親似かしらね? そう笑ったら「君に似たんだと思うよ」とシリルに返された。