003.痛くてもう無理ぃ!!
弟妹がいなかった私には、妊婦の状況はわからない。人から話で聞いた程度なの。陣痛って、ものすごく痛くて大変だと聞いたけれど……思ったより平気そう。そんなことを考えていられたのは、休止期間が長かったから。
徐々に痛みが強くなり、間隔も短くなり、痛くない時間が消えていく。必死で呼吸して、言われるまま「ひっひっふぅ」と声に出して、力んで……。隣で手を握るシリルに泣きつく。
「痛いっ、いたぁ! 無理、もうむりぃ」
「な、何とかならないのか」
「どうにもなりません!」
先生は一刀両断、おろおろするシリルの願いも私の絶叫も切り捨てた。ばっさばっさと遠慮も容赦もない。痛みの休止期間が長いうちに、と屋敷に戻された。騎士が二人で運ぶ板に乗って移動よ。戦場で重傷者を回収するときに使うみたい。
クッションを敷いても痛かったから、戦場で使う道具でも柔らかな敷物を用意したらどうか。なんて、のんびりしたことを考えた時もあったの。後でわかったのだけれど、血で汚れるから敷物はダメなのね。それに重さも重要だと思うし。
「うぎゃぁああ!」
「奥様、あと少し!」
さっきもあと少しって言ったわ。でも全然出てこないじゃない!! 力んだら体が裂けるかと思うほど痛いし、でも力まないと生まれない。なんでこんな仕組みになってるの? 女性の出産は命がけとは、このことかしら?
それ以前に、人体を造った神様の設計ミスだと思う。半端ない激痛を耐えないと生まれないのは、おかしいわ!! 心で絶叫しながら、口からも獣のような咆哮が出てくる。もうダメ、死ぬかも……。
そう思った直後、つるんと何かが通り抜けた。それも続けて二つ! 頭と体かな? ほっとして体の力が抜けた。全身が痛いし、頭がぼんやりしてくる。
「マリー? マリー! 大丈夫か。返事をしてくれ」
「シリル……うっさい」
ぼそっと本音が漏れた。すっごく眠いのよ、邪魔しないで。
「寝る前に抱いてあげて」
先生が手渡した重さに、はっとする。胸元に乗せられたのは、白い布に包まれた赤ちゃんだった。え? 赤ちゃんでいいのよね? 布で手足が見えないうえ、かろうじて見える顔も赤くて皺くちゃで……。
「かわぃい」
ぽつりと言葉が零れた。ええ、可愛いわ。私が生んだ、私とシリルの赤ちゃん。
「おめでとうございます。双子です」
もう一人がずしっと反対側に乗せられた。え? 右も左も私達の子なの?!
「だからお腹がやたら大きかったのか」
納得するシリルの声を聞きながら、逆らえない眠気に目を閉じた。起きたら確認するから、とりあえず休ませて頂戴。
眠ったのは二時間ほど、目が覚めて驚いた。お産に丸一日近くかかったんですって。痛かった以外、ほどんど覚えていないわ。