第9話 フォレ王国第二王子誕生パーティー 1 準備
僕達ウィザース男爵家が第二王子殿下の誕生パーティーに呼ばれた。
現在派閥に属していないぼっち貴族にとって、大事件である。
「そんなに大事件なの? 」
「大事件だよ」
父上と一通りどうするか考えて皆と集合した。
マリーが不思議そうに聞くが重たい声で父上が答える。
チラリとその隣にいる母上を見るけど、どこか重たい表情をしている。
「そもそも私達はあまり社交の場に出ない」
「私も出たことがないわね」
「母上も? 」
そうなのよ、と母上が言う。
それは少しおかしいような気もする。
この領地は代々父上の家系……、ウィザース男爵家が治めているはず。
ならば母上は他から嫁いできたことになる。
となるとここに来る前に経験していてもおかしくないと思うのだけれど。
「私、元冒険者なの」
「「「え? 」」」
「因みに私も元冒険者。領地を継ぐ前に冒険者をしていたんだよ」
「冒険者をしている時にウィリアムズと出会って、それから……」
と急に父上と母上が惚気だす。
温かい目線を送っていると気が付いて軽く咳払いをする。
「つまりこの場にはパーティーに出たことがない者と苦手な者しかいないということだ」
「確かにそれは大事件ですねぇ」
「ここまでくれば普通のパーティーも王子殿下のパーティーも大してかわりはない。どうやって切り抜けるか、問題だ」
父上が一旦話を区切る。
続けて僕が説明する。
「やることは山済みだけど、一先ずパーティーに出るメンバーを伝えるよ」
「メンバー? 」
「うん。と言ってもここにいる全員だけど」
「……ねぇアル。私、行かなくてもいいんじゃないかしら? 」
「母上それはなりません。男爵家当主の妻として、堂々と社交の場に出てください」
「こればかりは無理よぉ」
「諦めてください。先日ガイア様やローズマリー様と普通に話せていたじゃないですか。あのような感じでいいので出てください」
「あれは家だからよぉ」
母上が珍しくしおれている。
気持ちは分かるけど出てもらわないと困る。主に父上が。
僕達に出ないという選択肢はない。
王家主催の誕生パーティー。
出ないということは反意があると捉えられてもしかたない。引き摺ってでも母上を連れて行かないと。
それに本音を言えば僕だって出たくない。
「マリーとアリスも一緒に王都に行くけどその時は使用人の格好をしてほしい」
「構わないわよ」
「使用人の服。楽しみです」
「フレイナは護衛として僕達に付き添うように」
「畏まりました主殿」
マリー達はすんなり了解してくれた。
服を揃えるのは大変だけどここ数年は魔物を倒したおかげで懐は暖かくなっている。
今度のパーティーくらいならなんとかなるだろう。
「やる気になっている所悪いけど王城までついてくることができるのは護衛のフレイナくらいだからね」
「「ええ~~~」」
「使用人は会場に入れないらしいから。だから宿でお留守番」
マリーとアリスから文句が出る。けど飲んでもらわないとね。
王城に行ってパーティーに出て。
ただそれだけなのだけど、どこで誰がみているのかわからない。
予定は宿をとり一泊して帰る予定。
その間に他の貴族に見られる可能性がある。
だから対外的なものとして彼女達に使用人の格好をしてもらうことになった。
使用人の一人もいないとなると、今まで以上に周りの目線が厳しいものになる。
まぁ手遅れかもしれないけど。
「代わりに遠隔で僕達の護衛をして欲しい。マリーの力なら大丈夫だろ? 」
「もちろんよぉ」
「あと移動はアリスに頼むよ」
「わかりました、なのです! 」
「場所は大丈夫? 」
「方角さえわかれば大丈夫なのです! あとで下見に行くのです! 」
下見に行くの?!
それなら一緒に行こうかと提案する。
けれどアリスに「これは私に任された任務なのです! 」と却下されてしまった。
エッヘン、と満足げに胸を張る様子をみると、もう一緒に行くとは言えないね。
「あとはダンスとマナーと……」
ポツリと呟くと全体の空気が重くなる。
言って自分も気分が落ちる。
一応の礼儀作法のようなものは父上から教えた貰ったことはあるけどパーティーの礼儀作法なんて知らないぞ?!
前世の知識をフル活用しても全く分からない。
パーティーの作法ってなんだ……。
それにダンスだ。
これは致命的だ。全く踊ったことが無い。
最悪ウェルドライン公爵に頼み込んで一家全員ダンス&マナー講座を開いてもらうしか……。
「わたしが教えましょうか? 」
どんよりとした空気を出しているとマリーがいつものような、のんびりとした口調で提案する。
踊れるのか?!
顔を上げる。父上と母上も顔を上げている。
「うん。一応これでも踊れるのよぉ」
ニコニコとマリーが言う。
流石だ……。万能魔法使いはダンスも出来るのか。
彼女のハイスペックさに身震いがするね。
その後も誕生パーティーについてどうするか話は続いた。
マリーは変わっていなければマナーも大丈夫との事。
だからマリーに教えてもらう形にして、あとでウェルドライン公爵にチェックしてもらうことにした。
恐らくウェルドライン公爵もパーティーの準備とかではず。
気安く聞くわけにはいかないけどこればかりはお願いするしかない。
頼める人が公爵しかいないんだ。
パーティーについて公爵に連絡を取った。
ウェルドライン公爵から快諾を得て使用人を派遣してもらった。
きつい日々が続くけど僕達は他にもやることがある。
そう。パーティー用の服を買わなければならないのだ。
★
ウェルドライン公爵領で服を買い終えた僕達は着々とパーティーへの準備を進める。
思った以上にやることが多い。
いつもの訓練に加えてダンスの練習にマナーの特訓に。
僕と父上は先にマナーの特訓をクリアした。けれど母上が大苦戦。
そんな中、全員が最低限のマナーを覚えることができた。
公爵家から派遣されたチェック役からオッケーも出て安堵の息をつきたかったけど……まだまだやることはが残っている。
ぼっち貴族がどうやったら初めてのパーティーを切り抜けることができるのか、についての指南書を誰か作ってほしい。
そんなことを思いながらも特訓が続く。
そしてついにマリーからダンスのオッケーがでた。
「お疲れさまです。アル」
「……訓練よりもしんどかったよ」
「ふふ。剣の訓練とはまた違いますからね」
ベターっと地面に横たわる僕を見てリリーが覗く。
隣に座って周りを見渡す。
「広いとは思っていましたがパーティー用の広間まであるのですね」
「僕も使うまで知らなかったよ」
使うまで館の中にこんな施設があるとは思わなかった。
ここにも保存魔法がかけられているのか最初からピカピカだ。
普通の貴族の館には大小なりともパーティー用の広間はあるとおもう。
けれどウィザース男爵家はぼっち貴族で貧乏貴族。
あるのは少し不自然な感じもする。
やっぱりご先祖様はかなり高位の貴族だったんじゃないかと思う。
「リリーもパーティーに行くんだよね? 」
「ええ。私も呼ばれています」
「……その割には緊張していない気がするんだけど」
「いつも通りするだけなので」
ここにきて慣れの差か。
仕方のないことだけど少し経験値を分けてほしい、と思うのは贅沢なんだろうね。
「リリーは僕達の家に来ることが多いけど……大丈夫なの? 」
「大丈夫とは? 」
「いや他の友達とか……」
リリーは公爵家の娘だ。
パーティーもいっぱい出てそれなりに顔も広いはず。
となれば僕と違って同年代の友達も多いと思う。
それに剣や魔法の特訓しているみたいだし、他の貴族の子と遊んだりしないのだろうか?
「……ここに来るのはご迷惑でしたでしょうか? 」
リリーが悲しそうな顔をして聞いてくる。
う……。これはきつい。
体を起こしてリリーに向く。
「そんなことないよ。いつもリリーが来てくれて僕は嬉しいし」
「よかったです」
リリーが泣きそうな顔から一転してぱぁっと明るい笑みを浮かべる。
事なきを得てよかったと安心しながら全ての準備が整った。
そして僕達は当日を迎えた。
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