第82話 ソードマスター・アルフレッド
ウェルドライン公爵家に行くと襲撃されてリリーが攫われたと聞く。
激しい怒りを覚えながらも僕は悪魔獣となったアンテ・ノーゼを追うことに。
まだ間に合う。
そう自分に言い聞かせながら、アリスの力を使い武姫を全員連れて王都へ向かった。
のだが――。
「王都が……燃えている? 」
「一体なにが」
「キャァァァ! 」
燃える王都を走っていると女性の悲鳴声が聞こえてくる。
構っている場合じゃない。
僕はリリーの元に行かないといけないんだっ!
「くそっ! 放っておけない」
声の方へ素早く移動する。
するとそこには獣型悪魔獣から女性を守るように戦っている、ホテルナナホシ王都支店の店長アイナがいた。
「すぐに助ける! 」
「ア、アルフレッド様?! 」
マジックソードを作り出し、悪魔獣を切り刻む。
振り返ると唖然とした表情をしたアイナ達がいた。
「さ、流石アルフレッド様です」
「ありがとうございます! 」
彼女達に大丈夫か聞きながら、何が起こっているのか説明してもらう。
「いきなり異形の魔物が王都を襲いまして」
「い、今は冒険者ギルドと王国騎士団が対処を行っているようです」
いきなり悪魔獣が?
悪魔獣アンテの事を考えると、何かしら関係はあるだろう。
おかしな所ばかりだが……、今は考える時間も惜しい。
「マリー、フレイナ、アリス! 」
「「「はい (なのです)! 」」」
「僕は先にリリーを取り戻しに行く。だから王都を任せる! 」
彼女達に向くと三人が頼もしく答える。
魔物を倒すのはフレイナが。
フレイナを王都各方面に移動させるのはアリスが。
そして武姫も含めてナナホシの従業員達や被災している人達を纏めるのを、マリーに任せよう。
「ホテルや商会館は避難所として開放しても構わない」
「了解よ。でも、アルちゃん」
「なに? 」
「こっちはすぐに片付けて、わたし達も向かうから無茶をしないでね」
「……無茶をしても取り戻す! 」
あらあら、という声を背中に受けながら僕は先を急いだ。
★
「見つけたぞ! 」
「チッ! アルフレッドか! 」
王都を北方面に出るとすぐにアンテ・ノーゼを発見することができた。
見た目はあまり変化ない。
けれど彼から放たれている禍々しい魔力は悪魔獣のもの、そのものである。
「リリーを――放しやがれぇぇぇ!!! 」
空気を蹴りながらマジックソードを片手に駆ける。
狙うは一瞬。
リリーの体を傷つけないようにマジックソードをアンテに向けるが、――。
――パリン……。
「な?! 」
「ハハハ。オラァ! 」
「グファ! 」
蹴りを喰らいそのまま地面に落下する。
――ズドン!
地面と衝突する。
すぐに体を起こしてアンテを見失わないように捕捉する。
なんだ?
いきなりマジックソードが破壊された?
いや聞いていた魔法無効化能力か?
霧散型じゃないな……。
蹴られたことで頭が冷えて回るようになる。
最高硬度を誇っていたマジックソードがどんな原理で破られたのか考えていると、目に文字が浮かんだ。
「恩恵: 生贄の祭壇? 」
「なんでボクの恩恵の事を知っている? 」
読み上げると、イラついた声でアンテが降りて来る。
気を失っているのか、リリーが腕を前にだらんと伸ばしている。
頭が沸騰しそうになるが、すぐに冷静さを取り戻して、アンテに被さるように見える文字を更に読む。
「才能と引き換えに等価のものを得る恩恵? 」
読み上げるとリリーを置いて僕の方へ向かっているアンテが足を止める。
そのまま逃げると思ったけど僕と戦うことを選んだみたい。
「そうだ。ボクは魔法の才能全てを生贄に捧げることで、完全魔法無効化能力を得た」
それで僕のマジックソードが消えたのか。
魔法完全無効化能力。
これほどまでに厄介とは。
「……アルフレッド。武闘会ではお前に敗れた。だが……、だが貴様を倒し、リリアナをボクのものにする! 」
「させるはずないだろ! 」
アンテは拳を握りながら僕を睨みつける。
僕も拳を握りアンテに向ける。
「いいや必ずボクのものにする。ボクは貴様を倒し、乗り越える。そう! これはボクが真の意味で王となるためのプロセスだ! そして新人類の王たるボクの隣には、リリアナという美姫が必要なのだ! 」
「ほざけっ! 」
そして僕の拳とアンテの拳が交差した。
「破甲!!! 」
――硬い。
人型悪魔獣となったアンテと拳を交えてまず感じたことだ。
奴の動きに型のようなものはない。
けれど一撃一撃の威力は凄まじく、地面を陥没させるほど。
受けるのは悪手。
冷静に奴の攻撃を捌きながら考察する。
「魔弾」
「魔法は無駄だとわからないのか! 」
魔弾がアンテの前で弾ける。
足を止めた隙に最接近し拳で突く。
「三心撃! 」
「くっ……。不愉快な」
アンテが腕を振って僕を自分から離す。
人体の急所を狙ったはずなのだけれど……、いや魔物となったアンテに人体は関係ないか。
攻撃は止めない。
力任せなアンテの攻撃を格闘術で捌きながらも、こちらも反撃を繰り返す。
「天掌」
「ゴ……ァ……」
「火狩」
掌底で顎を打ち抜き、数歩後退した所で、一撃必殺の蹴りを首にかます。
直撃したけど吹き飛んだだけ。
やっぱり硬い。
けれどこれは分かっていたことだ。
すぐに追撃をして相手に攻撃に移らせない。
今のアンテの弱点は戦闘慣れしていない事だろう。
彼は恩恵とやらで魔法完全無効化能力を得た。
体は悪魔獣になった時、強化されたのだろう。
が基礎がなっていない。
「魔硬連弾」
癖なのか奴が魔法を無効化する時かならず動きを止める。
しかも体で受け止めるのではなく大きく腕で払うようなモーションをする。
戦闘で無駄な動きは厳禁だ。
「破鎧! 」
けれどそういった弱点を補う程の硬さがある。
スピードは驚くほどには速くない。リリーと同じくらいの速さだ。
けど必殺の一撃が不発に終わるのは心が削られるね。
これは持久戦、かな。
体力の温存を考えながらも拳を突き出し、アンテの攻撃を回避する。
「到着したのです! 」
「?! 」
アンテの集中が途切れるのを感じる。
すぐに蹴とばしてアリスを確認。
その後ろにはフレイナとマリーもいた。
「王都は一段落したわ」
「ここから先は私達も戦います」
魔導書を構えるマリーと剣を構えるフレイナ。
アリスもやる気がいっぱいのようだ。
「皆。奴は魔法完全無効化能力をもって――」
「風弾」
「いるんだけれど……」
注意する前にマリーが打ち込んだ。
が、アンテの前でキャンセルされた音を聞いて困ったような声を出す。
「なるほどねぇ。これは確かに魔法完全無効化だわ」
マリーの魔法を受けても傷一つつかないとは。
分かっていたけどちょっとショックだ。
「ならば今度は私が」
「フレイナ、ちょっと待って。僕に案がある」
「主殿? 」
「フレイナ、そしてアリス。武器装備を使おう」
それを聞き二人が大きく目を開いた。
フレイナは武姫の中でも剣術に長ける。
けれど超硬度を誇るアンテを傷つけることが出来るとは限らない。
ならば武器装備で、一撃で。
「もう終わりか? 愚民共」
アンテが血走った目でいやらしく笑みを浮かべながら僕達を見ている。
「畏まりました! 」
「行くのです! 」
アンテが攻撃モーションに入ろうとする。
アリスが鍵の状態に、フレイナが剣の状態に戻る。
「行くぞっ! 」
長剣を手に持ち、鍵に膨大な魔力を注ぎながら差し込む。
「な?! 」
ぶわっと長剣から膨大な魔力が迸る。
がそれでは終わらせない。
更に過剰ともいえるほどに魔力を長剣に注ぎ込む。
次第に長剣は赤い魔力を放ち出し長剣を色づき始める。
それに応じるかのように僕の服が赤く変化し始めた。
「なんだその桁外れの魔力はっ! 」
「アンテ。よくも僕の妻を襲ったな……」
――僕は奴を許さない。
戦闘ということで封じ込めていた感情を解き放つ。
どんな事情があるとしても、事実アンテは僕の守るべき対象に手を出した。
必ず、殺す。
「そ、そんなの脅しだぁ! 何かの魔法に決まってる! 」
長剣が燃え盛る。
更に魔力を流し、僕がフレイナの武姫スキル「炎姫剣」を使い、
「ボクは王になる存在! 貴様如きに負けるはずがない! 」
「……炎姫剣、獄風炎刃斬!!! 」
超熱の一撃を繰り出した。
★
「ん……」
膝の上でリリーが小さく声を上げる。
起きたかな?
「……アル? 」
「おはよう、リリー」
「アル! アル! 」
「っと?! 」
起きたかと思うといきなりリリーが抱き着いてくる。
ぎゅっとされて、一瞬どうしたらいいのかわからなくなったけど、ゆっくりと腕を回して頭を撫でた。
「リリーが無事でよかったよ」
彼女の気分を落ち着かせるため、何度も頭をゆっくりと撫でる。
「また……、助けられましたね」
落ち着いたと思うと、リリーが耳元で小さく言う。
「……これからは、いやこれからも助け合う仲だろ? 次は僕が助けられるかも」
「これからも迷惑をかけてもいいのですか? 」
「迷惑を掛け合うのが夫婦じゃないのか? 」
言うとくすりと笑い僕の首から腕を離す。
「確かに、そうかもですね」
言葉と同時にリリーが僕に唇を重ねてくる。
いきなりでドキッとした。
けれど彼女の求めに応じるように僕も唇を押しやる。
「あらあら夫婦仲がいいのは良い事だけど、わたし達がいることを忘れないで欲しいわ」
「はわわわ……」
「この先も安心してお仕えできるな」
マリー達の声で急に我に返る。
すぐに唇を離す。
顔に熱が昇るのを感じながらもチラリとリリーを見ると、
真っ赤だけど、どこか幸せそうな表情をしているね。
この先どんな困難が待ち受けているのかわからない。
けれどリリーと、そして武姫達とならば切り抜けて行けると僕は感じた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。本作はここまでになります。また他作でおあいしましょう。ではこれにて。




