第81話 リリアナ、消失
リリーと思いを確かめ合った翌日、ガイア様に結果を報告すると言って家に戻った。
婚約自体は決まっていたこと。
報告する必要があるのだろうか?
「親としては大丈夫だとわかっていても、心のどこかで娘が拒絶されて傷付いたらどうしよう、と考えてしまうものだよ」
訓練場へ向かいながら父上が言う。
ガイア様やローズマリー様も今回の婚約、どこか不安に思っていたのかもしれない。
そう思うと公爵家であろうと男爵家であろうと子を思う親の気持ちは同じなのかも。
いや僕達が特殊なだけ、という可能性もあるけれどね。
「少々恥ずかしい気もしますが」
「このくらいは我慢しないと」
父上が僕の頭をクシャッとしながら小さく笑う。
確かに僕は昨日リリーに思いを伝えた。
けれどこれはリリーに伝えたものであって、ガイア様やローズマリー様用に加工したものではない。
今頃ローズマリー様に「どのような告白を受けたのですか? 」とでも聞かれているのかも。
ううう……。返事をしているリリーを想像するだけで顔が熱くなる。
「そんなもんじゃ賊に着ろ殺されるぞォォォ! 」
「ひぃ! お助け! 」
「このクソジジイ! 今度こそはっ……」
「誰がクソジジイじゃ! 」
「ギャァァァ!!! 」
訓練場に着くと今日も景気よくリーグルドが空を舞っていた。
よく飛んでいるな、と思いながら空を見上げていると父上が領軍に声をかける。
彼らはすぐに集まり挨拶を。
そして僕が一歩前に出て手に持っているマジックアイテムをそれぞれに渡す。
「これは王立魔法技術研究所で作られた悪魔獣探知機と対魔力霧散能力だ」
「悪魔獣を探知できるんで?! 」
「それに対魔力霧散能力とは……。これまたすごい」
「こんなものを仕入れてくるなんて流石アルフレッド様だ」
それぞれに渡すけれど全員に渡すほどの数はない。
それに対魔力霧散能力も霧散できる魔力にも限度がある。
僕や武姫達はこのマジックアイテムが干渉できるレベル帯の魔法無効化能力にはいない。
よってこれを起動させて使うよりも移動して物理で攻撃した方が早い。
このような対魔力霧散能力の機能の問題や数の問題を伝える。
「王立魔法技術研究所との共同研究で、ナナホシ商会で増産することが決まった。行き渡るようにするからもう少し待ってほしい」
「待ちますぜ。アルフレッド様」
「ありがてぇ。突然変異種のような魔物に出くわした時、助かる」
「気に入ってくれたようでうれしいよ」
まぁ魔法無効化能力を持っている魔物自体珍しいんだけどね。
けれどこれを彼らに渡したのは、武闘会の会場で魔法無効化能力を持った悪魔獣が出現したからだ。
もしあんな魔物が領内に発生した時、準備不足で何も出来なかった何てことは避けたい。
「じゃぁアリス。よろしく頼むよ」
「はいなのです! 」
アリスが武姫スキルを使いウェルドライン公爵家に向かう準備をする。
そろそろリリーも話し終えただろう。
今から僕はウェルドライン公爵家にマジックアイテムを渡しに行く。
事前にフォレスティナ所長から了解を貰ったけど、本当に渋々と言った感じだった。
どれだけ毛嫌いしているのやら。
けれどこれらは、——共同研究に成功したら市場に出す。
この事を踏まえてフォレスティナ所長を説得したのだった。
「このアイテムはリリーに必要ないかもね」
いや絶対に必要ないと思う。
武闘会に現れた悪魔獣に不覚を取っていた。
けれどその後、フレイナと猛特訓をしていると聞く。
今まで「フォレ王国最強」を欲しいままにしていた彼女だ。
物理だけであのレベル帯の悪魔獣を倒せるようになると思うけれど、魔力密度を上げる訓練をすればすぐに魔法で敵を蒸発させそうだ。
けれど今の所は念のために。
「出来たです」
「じゃぁ行こう」
アリスが門を固定している間に僕は潜る。
そこには見慣れた公爵邸が映ると思ったのだけれど、
「なん、だ。これは……」
目の前に広がっていたのは館の大部分が破壊された公爵邸だった。
★
あちこちから怒声が聞こえてくる。
火が回っているのだろうか。
半壊した公爵邸を見上げると、焼け焦げた臭いも漂って来る。
「お待ちください公爵閣下! 危険でございます! 」
「放せ! ノーゼのクソガキをぶち殺してくれるわ! 」
「落ち着きなさい貴方! どうやってあの速度に追いつくのですか」
ガイア様とローズマリー様の声を聴き我に返る。
すぐ館に駆ける。
中に入ると公爵領の騎士達が忙しく動いている。
綺麗な花壇は薙倒され、綺麗な庭は所々焼けていた。
「アルフレッドじゃないか! 」
「ガイア様?! 」
声の方を見るとガイア様が頭から血を流しいる。
痛々しい姿だが今はそれよりも――。
「何があったんですか! 」
「う……む」
さっきまでの勢いはどこへ行ったのか、ガイア様が口籠る。
遅れてローズマリー様が僕の方へ向かってきた。
「一先ず場所を移しましょう」
「だが……」
「今貴方に出来ることはありません。しかし――、アルフレッドなら。もしかしたら」
僕はローズマリー様に連れられ仮設テントへ向かった。
外から騎士達の声が聞こえる中、ウェルドライン公爵家の人達と向き合う。
けど......あれ?
「リリーはどこにいるんでしょうか? 」
僕が言うと二人は暗い表情を浮かべて俯いた。
急に不安が押し上げて来る。
「リリーは……アンテ・ノーゼに連れ去られた」
「……え」
何を……言ってるの?
「今日、リリーが帰って来た時の事だ。リリーがアルフレッドとの婚約がスムーズに行った事を報告した後、奴が現れた」
「リリーが負けるはずがない! 」
リリーは国内でも有数の実力者だ。
あんな雑魚に負けるはずがない。
あり得ない……。
「空からやってきた奴とリリーは戦ったのだが……。リリーの魔法が打ち消されたのだ」
「魔法無効化能力……」
「あれはまさに人外。悪魔獣に落ちた人間でした」
――失策だ。
まさかこんな短期間で状況が移り変わるとは。
それにリリーなら何があっても大丈夫という安心があったのも事実。
くそっ!
こういう事がないようにマジックアイテムを持ってきたのにっ!
「奴は王都方面に向かった。私達は領内を治めた後ノーゼ公爵領へ向かうのだが――」
拳を握り唇をかむ。
顔を上げてガイア様に吠える。
「リリーを助けに行きます! 」
席を立つ僕にガイア様がしっかりとした目つきで僕を見る。
「息子となる君にまかせっきりというのは不甲斐ない気持ちでいっぱいだ。だが、――頼んだぞ。アルフレッド」
「はい! 」
少しでも早く彼女を取り戻す。
アンテ・ノーゼ……。
許さない。
僕の守るべき人に手を出したことを必ず後悔させてやる!
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