第80話 「僕と一緒に人生を歩んでくれませんか? 」
リリーとの婚約が決定した。
なお婚約の正式発表は父上の、子爵への昇爵に合わせて発表されるらしい。
父上曰く、昇爵は僕が武闘会で襲撃してきた悪魔獣を倒したことによるらしい。
もちろんとても吃驚したし、嬉しいこの上ない。
はずなのだけれど……。
「「……」」
沈黙がきつい。
父上から話を聞かされたあと、僕とリリーは自室に行き、二人っきりになった。
こんな時マリーやアリス、フレイナがいると、少なくとも沈黙になることはないんだろうけど。
しかし何故リリーが僕の婚約者に?
僕がリリーの所へ婿入りするのならわかるんだけど……、考えても仕方ないか。
「ご迷惑、でしたでしょうか」
リリーが恐る恐ると言った感じで聞いてくる。
が「そんなことないよ」とすぐにそれを否定する。
とリリーがホッとした表情を浮かべた。
実際知らない相手と結婚するよりも、気の知れたリリーと結婚した方が僕としても嬉しい。
政治的な事を抜きにしても彼女は非常に魅力的な女性だ。
黒曜のような吸い込まれるような瞳に綺麗で長い黒髪。体は平均よりも小さくあるも、それもまた魅力的で。
――国のアイドル。
そう呼ばれてもおかしくない女性だ。
性格はやや過激な所があるも、本当に踏み込んでほしくない所は踏み込んでこない、一歩引いた感じの女性。
僕には不釣り合い、なんて言ったらリリーに怒られそうだ。
けれど経緯を聞くくらいならいいだろう。
「けど何で僕の婚約者にリリーが? アンテはともかくとして、色んな貴族から婚約の申し出があったんじゃないの? 」
「ありました。しかし、全てお断りをしました」
リリーに婚約を申し込むというくらいだから、高位貴族からの婚約のはずだ。
それは断れるものなのだろうか?
「父がバッサリと断りましたよ? 」
「ガイア様が、か~。それは相手も諦めるしかないね」
あの強面で断られたら諦めるしかない。
この後も僕が研究所にいっていた時、どんなことがあったのかリリーに話を聞いた。
フレイナに訓練をつけてもらい始めた以外、変わったことはないらしく平常運転との事。
ノーゼ公爵家から何かしらあるかと身構えていたけど大丈夫みたい。
彼女自身に問題が起こってなくて本当に良かった。
今日、リリーは僕の家に泊るらしい。
ケイトと合宿をした時と同じ部屋にリリーを案内する。
そしてお泊り会が始まった。
★
――僕はリリーの事が好きなのだろうか。
午後、ベッドの上で一人考える。
婚約、ということは順当に行けばこのまま結婚だ。
結婚とは何か。
契約であり、「家族」となる儀式のようなもの。
つまりリリーはこの儀式を通じて僕の身内になる。
好きか嫌いかで聞かれると、僕はリリーの事が好きだと断言できる。
けれどそれが恋心かと聞かれると、ん~、どうなのだろうか。
「難しく考えすぎじゃない? 」
「いやそう言うけどさ、マリー。僕にとっては大事な事なんだよ」
僕が一人考えているとマリー達が僕の部屋にやってきた。
どんな話をしたのか興味津々に聞かれたので、僕の悩みと一緒に教えた。
「お兄ちゃんはリリーの事が嫌いなのです? 」
「いや好きだよ」
「??? 」
「好き、にも色んな種類があるんだよ」
苦笑いを浮かべながらアリスに言うと、アリスは首をかしげてしまった。
僕も「好き」の種類がひとつならこんなにも困らなかっただろうな、と思う。
けど人間の感情と言うのはわからないもので。
僕の好きが「どの好き」なのか、いまいち自分でも掴めていない。
「……もし主殿の所からリリアナ殿がいなくなったらどう思いますか? 」
「どう、か」
フレイナの言葉を頭の中で考えて想像してみた。
もし僕の所からリリーがいなくなったとして……、
時々見せる花のように咲くリリーの笑顔を見ることが出来なくなる。
リリーは時々何の予告も無く僕の家にやってくるけど、疲れた時不意に見るあの笑顔はいつも僕を癒してくれていたと思う。
僕はよく怒られる。
まぁその殆どは僕が悪かったりするから仕方ないのだけれど。
リリーは怒ると怖い。
だけどそれは、外に見せる時とはまた違う、――僕にだけ見せる表情だったりする。
……それも無くなるのか。
――寂しいな。
リリーはいつも僕の隣にいてくれた。
けれど結婚で彼女が他の男の所へ行くのを想像する。
――いかないで!
想像以上にきつい。
何で僕を選んでくれなかったのか、と黒い感情が芽生えるのを感じる。
男の独占欲と言われても仕方のない事だと思う。
そうか。僕は――、
「リリーの事が好きなんだ」
ポツリと漏れた言葉に温かい空気が漂った。
「ならアルちゃんがとるべき行動は一つね」
「とるべき行動? 」
「もちろん告白よ」
告白?!
「……婚約したんだからいいんじゃないの? 」
「そんなことないわよ。リリーちゃん、アルちゃんが自分の事をどう思っているのか不安がっていたわよ」
「すぐに行きます! 」
頑張ってねぇ、という声を背中にしながら僕は部屋を出る。
そして僕はリリーの部屋をノックした。
★
勢いよく部屋を出たはいいものの、正直何をどうすればいいのかわからなかった。
あのまま「好きです! 」と突っ込んでいくのもありだったが、それではリリーを混乱させるだけだと途中で気付く。
よって夜に「話があるから」とだけ伝えて……、夕食を終えた。
「アル。入りますね」
「いやオッケーしてないんだけど」
部屋でどういう風に切り出したらいいのか考えていると、リリーがノックと共に姿を現した。
そこは普通「入ってもいいですか? 」と聞くところではないだろうか。
「ふふ。ちょっとした冗談です」
冗談と言っているが本当に返事を待たずに入ってきたのだけれど……。
気にしたら負けか。
この先こういった、冗談のやり取りが増えるのかな?
それはそれで面白いかも。
リリーと一緒になったら、少なくとも退屈な日々にはならないだろうね。
リリーがベッドの上に座る僕の前に来る。
いつもの白い騎士のような服ではない。
少し透き通った寝巻のようなものを着ている。
確かネグリジェ? というものだったか?
いつもとは違う可愛らしさが出ているね。
リリーに用意した椅子に座るように伝えると、少しぎこちない動きで腰を降ろす。
「確かアルに最初出会った時は賊に襲われていた時ですね」
リリーが懐かしそうに言う。
「そうだね。思えばあの時僕が狩りの位置を変えていないとリリーと出会うことも無かったのか」
「あの時のアルの勇ましい姿は今でも忘れません」
リリーと出会った時、僕は緊張でそれ所じゃなかったけどね。
何せ初めて会う公爵家という雲の上の存在。
「初めて会った貴族がリリーでよかったと今でも思うよ」
「それはありがたい事ですね」
「僕もだよ」
初めて会った高位貴族は、吸い込まれるような黒い瞳と長い髪をしたお嬢様。
最初はたじたじだったけれど、普通の女の子とわかってからは一緒に過ごす中となった。
それから彼女との日々が続いたわけだけど、
「運命、と言えば運命なのかもしれない」
「あら、今まで私との出会いを運命と感じていなかったのですか? 私は最初から運命の人と思っていましたけれど」
「……それは、悪かったよ」
リリーと出会って約七年。
自分の想いに気付き、今やっと彼女を真っすぐ見ることができるようになった。
「リリー。僕は、リリアナ・ウェルドラインの事が、好きだよ」
言うとリリーが口に手を当てる。
「……昔から。出会った時からお慕いしておりました。アルフレッド」
リリーは瞳に涙を浮かべながら僕を見る。
僕はベッドから立ち、彼女の所へ行き軽くお辞儀をして、リリーに手を差し伸べる。
「これからこの先僕と一緒に人生を歩んでくれませんか? 」
「喜んで」
リリーが僕の手を取り、笑顔を咲かせた。
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